2.賢者修行は王が弟子で、前途多難 

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「できない? 目の前に大きな本が見えているから難しいのよ。目を閉じて。そうなったらいいなぁって、頭の中で思い描くの。本が小さくなって簡単に持ち運べたら、とっても便利でしょ? 良いと思うでしょ? そしたら、ほら。小さく小さくなっていくから」  マーシャに言われてアーサーは素直に瞼を閉ざす。アーサーの牛のミルクのように白く滑らかな肌に黄金色の睫毛が長い影をつくっている。じつに無防備な顔だ。  赤く潤った唇は薄く開き、形の整った眉は緩やかな弧を描いている。  再びマーシャは、そっとため息をついた。 (なんでそんな顔するの? 無防備すぎるわよ。たくさんの兵士たちに守られている城の中じゃないの。もっと警戒して。あたしを好きだとか言って、あたしを信じすぎないで。……あたしのこと何も知らないでしょ?)  森にやって来てからアーサーはマーシャに対してとても素直で、真っ直ぐだ。  だけど、それはマーシャにとって却って厄介なことに思えた。アーサーが無防備であればあるほど、マーシャまで無防備になってしまうからだ。 「うわっ。消えた!」  マーシャが見つめていた青い瞳が、ばちっと大きく開いた。アーサーが短く声を上げ、テーブルの上を凝視している。  マーシャもそちらに視線を移せば、テーブルの上に本がない。無事に消すことができたらしい。 「どこいった⁉」 「だから、手の中に仕舞ったのよ。手のひらを見て、ほくろができてない? それ、本よ」 「はぁ? ほくろだと?」  アーサーはすぐさま自分の右手を確認して、再び声を上げる。 「うわっ。なんだこのほくろ!」
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