2.賢者修行は王が弟子で、前途多難 

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「だから、本だってば。ほら、今度は手から本を出してみて。出て来いって思えば、出てくるから」  アーサーは呆気に取られたような表情で、自分の手のひらとマーシャを見比べた。 「出て来いと思えば出てくる、って。簡単に言ってくれるよな」 「早く出して。簡単なの。ここ基本中の基本なの。ここで躓いたら先に進めないじゃないの」 「分かった。分かった。イメージだろ?」  そうそうとマーシャが頷くと、アーサーは両目を閉ざしてテーブルの上に手のひらを置いた。  多少なりドルイドとしての素質があるのか、それとも、状況に対する順応性や思考の柔軟性が高いのか、先ほどよりもスムーズにイメージができたらしく、手のひらの下に黒い本が現れた。 「おおっ、出た」 「本以外にもいろいろと仕舞い込めるから試してみるといいわよ。たとえば、腰から下げている剣とか。あたしは紙とかペンを仕舞っているわ。あと、ナイフとかパンとか皮袋に入れた水とか。ただし、仕舞えば仕舞っただけ手のひらにほくろが増えちゃうのは考えものよね」 「なるほどな」 「――以上」 「はぁ?」  呆気に取られているアーサーを置き去りにしてマーシャは椅子から立ち上がり、窓際に移動すると、揺り椅子で丸くなっていた黒猫を両腕に抱き上げた。 「基本的なことは説明したし、本もあげたわ。あとは自分で本を読んで学ぶものなの。一から百まで師匠が手取り足取り教えるなんてこと、ドルイドはしないわ」
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