約束の仮面

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 小学三年生の時、仲の良かった男の子と約束を交わしたことを覚えている。指切りをするほど、その頃の私たちにとっては大事な約束だったはずなのに、十五年経った今となってはどんな約束だったか全く思い出せない。  くだらなかったような、やっぱり大切だったような。  思い出せないということは、大した約束ではなかったのだろうと自分を納得させ、私は保育士として働く初日を迎えていた。 「あれ、サエ? 本当に保育士になったんだ」  就職先の保育園で挨拶をし終えると、一人の男性が話し掛けてきた。お腹にウサギのアップリケを貼ったエプロンを着け、人懐こそうな笑顔を向ける。え、誰? 戸惑っていると、園長先生が声を上げた。 「あら、ユウキ先生と知り合い? じゃあ園内広いから、案内はユウキ先生にお願いしようかな」 「いいですよ。じゃあ、サエ、こっち」  手招きをされたので、戸惑いながらもとりあえず足を動かして、男性の後についていく。が、状況には全くついていけていない。えっと、ユウキ先生?  誰だっけ? 顔に見覚えがあるような、ないような……ユウキユウキ、と頭の中で過去の知り合いリストに照合をかけて……やがてひとりの人物がヒットした。 「もしかして……ユウキ、くん?」 「そうだよ。久しぶり」  その人は小学生の時、仲良くしていた男の子だった。彼の姿が急に頭の中に蘇る。  口元に小さなホクロ、若干のタレ目。中学に上がってからなんとなく疎遠になってしまった同級生。高校は離れてしまったので、私の中のユウキくんは中学生の姿で止まっている。彼はどちらかというとヤンチャで、ウサギだとかそういった可愛いものを好まなかった記憶があるんだけど…… 「本当にあのユウキくん?」  疑いたくなるのも無理ないと思う。だって今の彼は、ウサギのエプロンをして(しかもピンク)保育士になっているんだもん。 「そうだって。家が近所で小学校の頃よく遊んでたろ?」 「うん。それは覚えてるんだけど……」 「なに、俺が保育士じゃおかしいわけ?」  ユウキくんは形のいい眉をひそめて不満顔になった。あ、そういえばこんな顔もよくしてた気がする。 「違う違う。意外だっただけ」  まさかこんなところで再会するとは思わなかったし、思い出の中の人になっていた。なんせ仲良くしてたのは小学校までで、中学に上がると自然と話さなくなっていたから。  春の風が私たちの間をすり抜けた。
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