約束の仮面

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*** 「わたしね、大きくなったら、保育士になる!」 「ふーん。おれは子どもキライだから、理解できない」 「子どもが子どもキライって、なんかヘンだよ」 「おれは仮面サイダーみたいな、かっこいいヒーローになる!」 「じゃあさ、ユウキくん。夢、かなえようよ!」 「いいよ。サエが保育士で、俺が仮面サイダーな」 「うん!」 「かなえるだけじゃつまんないから、先にかなえたほうが『なんでも言うこと聞いてもらえるけんり』を、はつどうできるようにしようぜ!」 「なんでも言うこと聞いてもらえるけんり……?」 「そう。たとえばおれがサエより先に夢かなえて、仮面サイダーになったらサエに『ジュース買ってきて』とか頼めるけんり」 「じゃあわたしがユウキくんより先に保育士になったら、わたしがユウキくんに『ジュース買ってきて』って頼めるの?」 「そういうこと」 「わかった! いいよ」 「じゃあやくそくな!」 「うん、やくそく!」 ***  そこで全て思い出した。指切りげんまんまでして交わした約束の内容。やっぱり大した約束ではなかった。『なんでも言うこと聞いてもらえるけんり』ってなんだ。いかにも小学生が考えそうな内容だ。中学の頃から随分と背が伸びたユウキくんは「そういえば」となにかを思い出したように、私を見下ろしてきた。 「なに」 「約束したよな? 小学校三年生のとき」 「したね」  せーの、で合わせたわけではないが、見事にハモることになった。 「「なんでも言うこと聞いてもらえるけんり」」  顔を見合わせて二人で笑う。 「うわー、懐かしい。覚えててくれたんだな」 「あー、正直今思い出した。『仮面サイダー』って言葉で」 「マジかよ。俺結構覚えてたのに」  ユウキくんによると、その約束をしたのは小学三年生の春の新学期、クラス発表があった日だったらしい。同じクラス、隣同士の席になった私たちは休憩時間にそんな話をしたのだという。さすがにそんな細かいシチュエーションまでは思い出せない。「記憶力がいいんだね」と言うと「まぁな」と鼻の下を擦って照れ臭そうに笑った。
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