約束の仮面

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「えー……しょうがないな。お金くれとかは無理だから」 「あ、それもいいな」 「ちょっと、ダメだって」  ユウキくんはニヤニヤして鼻の頭を掻いた。変な事を言われるのではないかと思わず身構える。しかし彼はその笑顔のまま言った。 「結婚を前提に、付き合ってください」 「…………?」  幻聴が聞こえた。なに? 血痕? 天使が通ったのか、二人の間に少しの沈黙が落ちる。ユウキくんは手のひらを私の前でヒラヒラさせた。 「もしもし? サエさん?」 「あ、ごめん、ちょっと幻聴が」 「だーから、結婚を前提に付き合ってくださいって言ってんの」 「けっこん……?」  こう見えても漢検二級保持者なので漢字は得意なはずなのだが、うまく変換できない。けっこん、ケッコン、血痕、結婚。  外から「ママぁ!」と子どもが泣き叫ぶ声が聞こえた。ユウキくんは「なんでも言うこと聞いてくれるんだったよな? 指切りまでしたから、やぶったら針千本のーます、だけど」とニコニコしている。本気なのか冗談なのか、今の私には判別できない。目をこれでもかと瞬かせると、ユウキくんは「まぁ急に言われても困るよな」と苦笑した。 「えっと……ユウキくんは私のこと、好き、なの?」 「うん。好きだよ」  眩暈がするほどガツンときた即答だった。顔からボッと音を立てて火が出る。言葉を選ぶ私に対し、迷いなく言葉をくれるユウキくん。昔から正直に『子どもが嫌いだ』と言っていた頃と変わらない初恋の人が、確かに目の前にいた。 「全部ぶっちゃけると、小学生の頃からサエが好きで、ヒーローになればサエを守れるなって思って、保育士だった仮面サイダーに憧れて。中学あがったときからサエを意識しだして、喋れなくなったんだよな。高校は別になって、それでもサエを忘れらんなくて、そしたら進路調査。サエが保育士になりたいって言ってたの忘れてなくて、なれたら会えるかもしれないって思って保育士の資格が取れる短大に行ったんだ。そしたらマジで会えた。運命としか思えないんだけど、どう思います?」
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