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早口だけど、冷やかしではない。本物だ。真っ直ぐ目を見て言われると、冗談だとは思えなかった。まさか両想いだったなんて。色んな衝撃が一気に押し寄せてきて、危うく溺れそうになる。
「えっと……」
本気であることは分かったけど。いきなり結婚を前提、と言われると返事に困る。もちろん、気持ちは嬉しい。嬉しいんだけど……
言い淀んでいると、ユウキくんは苦笑した。
「って今更だよな。ごめん、困らせるつもりはなかったんだ。ただ、約束したあの時から告白するつもりだったってこと、知っといてほしい」
そう言われて、グルグル回っていた思考が動きを止めた。ユウキくんは昔から変わっていない。真っ直ぐで素直で温かい心の持ち主だ。あの時絡めた小指の温かさが、今になって蘇ってきた。
ユウキくんが真っ直ぐ伝えてくれるなら、私もきちんと返さなければ失礼だろう。ちょっとだけ咳払いして私は口を開いた。
「ありがとう。すごく嬉しい。わたしもね、ユウキくんのこと、好きだったよ。初恋だったの」
「え」
「結婚を前提に、ってちょっとまだ分かんないから、前向きに考えるということで、お友だちからというのは……どうでしょう?」
これはいつかの約束を果たすための結論ではない。ユウキくんの言うとおり、ここで再会できたのは運命だと思った。すでに友だちじゃないかと言われれば確かにそうなんだけど、もう一度あの頃みたいな関係から始められたらいいな、と思う。
「いいの? 俺、期待しちゃうけど」
「……うん」
ヒーローになりたいと言っていた彼は、すでに私のヒーローだった。ユウキくんと再会して少しずつ思い出してきた記憶。
ユウキくんは徐々に瞳を輝かせ、なにを思ったか「マジで!?」と言うとおゆうぎしつを飛び出した。
「ちょ、カオリ! 彼女になってくれるってー!」
「いや友だちからだから! っていうか子どもにそんなこと言わないの!」
前途多難そうだけど。
楽しい保育士生活が始まりそうな予感がして、嬉しくなった。
END.
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