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「お前は……」
どれくらい、時間が経ったのだろう。今まで黙っていた春人が、小さく口を開いた。
「お前は、約束を破るような奴じゃない」
春人はクイッと上を見上げると、溢れ出していた涙を拭き取った。そして立ち上がり、縋り付くように桜の木にコツンと頭をぶつけた。
「咲良。お前、ここにいるのか?」
そして、春人は私の方を見た。
「は、春人……」
何で、どういうこと?
春人には、私が見えるの?
春人が、濁りのない綺麗な瞳で見つめるものだから、私は場違いにも、思わずそう思ってしまった。だって、ずっと春人は私の方を見なかったから。ずっと、目なんか合わなかったんだから。
「……なんてな。咲良はここにいないのに、何言ってんだ、俺」
ハハッと、春人は自らを侮辱するように笑う。そして、話を続けた。あの頃から全く変わっていない、温かみに溢れた声色で。
「本当は、今日ここには来ないつもりだったんだ。お前が来れないのを実感したくなかったから」
気づいたら、風が弱まっていた。あんなに暴れるように降っていた花びらの数は、落ち着きを取り戻していた。
「でも……、お前の性格を考えたら、絶対今日ここに来るよなって。何があっても、お前は約束を破ったりはしないだろうなって、思ったから」
春人は穏やかな顔で、桜の木を見上げていた。
「遅れて来て、ごめんな」
「謝らなくていいよ」
春人の言葉に、私は届かないとわかっていても、首を振ってそう返した。
もう、私の姿は、彼には見えない。勿論、そのことに気づいた時は悲しかったし、取り乱しそうになってしまった。
しかし、今私はここにいる。ここにいて、春人との約束を果たした。それは、私達の心が繋がっているから。春人が私のことを信じてくれたから。
私も、春人のことを信じているから。だから、私達は、こうして再び会えた。
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