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「……そろそろ、帰ろうかな」
そう言った春人。春人は、私には一瞥もくれずに、通学路に沿って去っていく。
あぁ、もう彼には会えないのだな。私はそう直感した。
本当は寂しい。悲しい。独りにはなりたくない。春人と話したい。もっと声を聞きたい。抱き締めたい。
でも、私は死んだ。だから、それは出来ない。
それならば、せめて。これだけは言わせて欲しい。ただの自己満足だとはわかっている。でも私は言いたい。
「約束、守ってくれてありがとう」
その時、突然風が止んだ。自然な動きで桃色の雪が舞う中、私の声に気づくかのように、春人が振り返った。
春人は一瞬、驚いたように目を見張ったが、すぐに笑顔になった。
ー『……今から、甘いものでも食べに行かない?』
私達がお互いを認識した日。生まれて初めて、私が人に抱いた特別な感情。それを知ったあの日。
春人は変わった。格好良くなったし、垢抜けた。でも、笑顔はあの日と同じだった。
私が、見えているの?
そう言おうとした時、私の意識はなくなった。
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