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桜の木に体を向けた私は、春人との会話を思い出していた。
ついに迎えた約束の今日。中学校の中には誰もいない。グラウンドにも誰一人いなかった。
卒業式があった週の土曜日、時間は一時に、私達は会おうと約束していた。
しかし、十分が過ぎた今でも、彼は現れない。
私は桜の木に手を添えた。
「彼はまだ来ないのかなぁ……」
ふいに口から出た想いは、思っていたよりも悲しくて、自分でもびっくりした。
先程までは風がなかった。でも今は、冷たい風が私の頬や足を、かすめては通り過ぎていった。
ザワザワと木が騒ぐ。桜の花びらが、まるで吹雪のように舞っている。私は、何だか変な胸騒ぎがしてきた。
春人はちゃんと来てくれるのだろうか。いや、来てくれる。でも、彼が遅刻なんてありえない。だって春人が待ち合わせに遅れたことは、今まで一度もなかったから。一緒に遊びに出掛けた時だって、私よりも先に来ていたのだから。
だけど、春人が約束を忘れたなんて信じたくない。絶対春人は来る。
そう、絶対に、来る。
私はそう自分に信じ込ませて、顔を上げた。
黒いスカートをギュッと握り締めながら、私は春人を待った。
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