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「お口に合うかどうかは分かりませんが……。」
彼女が照れくさそうに言いながら店のドアを開けると、カウンターの上に置かれたものが俺の目に映った。そこには、鍋に入ったホワイトシチューと、自家製ドレッシング、それにグリーンサラダが2人分ある。
「少し待っててくださいね。すぐ温めますから。」
俺たちと合流する前に準備をしていたのだろう。マリアさんがシチュー鍋を火をかけると、たちまち美味しそうな香りの湯気がダイニングに立ち上る。
「うわぁ、美味しそう!」
ごちそうを見つけた瞬間、真っ先に席に座っていたアニーは、目を輝かせながらマリアさんに「ありがとう!」とお礼を言う。俺も後を追うように、彼女へお礼を告げた。
「ここまでして頂いて、本当にマリアさんには感謝しかありません。」
「いえいえ、とんでもないです。」
彼女のごちそうは絶品で、野菜嫌いのアニーが完食していた。
「それでは、また近いうちに来ます。」
「はい、気を付けて下さいね。」
店の前まで見送りに来てくれたマリアさんに手を振り、俺とアニーは馬車に乗り込んだ。
彼女の姿が遠く小さくなり、見えなくなるところまで馬車が進むと、隣に座っているアニーがどこか寂しそうな表情を浮かべているのに気付く。
「パパ……」
「ん?何だ、アニー。」
アニーは少し黙った後、
「……ママが欲しい。」
「……!」
「マリアさんが……いい。」
何を思ったのか、そんな事を口にした。
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