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聖暦1863年 7月
「ジャック・ランカードだね?」
マリアさんが亡くなって3ヶ月──アルザス山脈の中腹にある古民家に独りで住む魔女ジェーンは、訪ねてきた俺に開口一番そう言った。
「はい。確かにそうですが……、何故俺の名を?」
「マリアはアタシの弟子さね。」
以前、新聞のイラストで見た顔よりは幾分穏やかな風貌の老婆は、腕組みをして大きくため息をついた。少しカールがかかった金色の髪を後ろでしばり、全身はカラス色のローブで包まれている。
釜で何か作ろうとしていた彼女は、何でもお見通しかのような目で俺を見据える。
「……で、何の用だい?」
「FLOWER GATEの魔法をお願いしたいんです。……俺を1年前に戻して下さい!!」
出された紅茶に口もつけず、俺は膝を乗り出した。
「やれやれ……アンタとマリアは似た者同士ってのかねぇ……。」
そう言って、老婆は椅子からゆっくり立ち上がる。
"似た者同士" とは一体どういうことだろうか。
「あいててて」と曲がった腰をさすりながら、本棚から一冊の分厚い黒表紙の本を取り出し、彼女は再び席に着く。
ふうっとひとつ大きなため息をつき、マリアさんとFLOWER GATEについて魔女はゆっくりと俺に話し始めた。
「マリアはね。最初の人生では救護隊にいて、アンタら兵士や偵察竜の世話とかをしてたんだよ。人を殺すのは自分にはできないからって。」
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