8「戦いにすらならない」

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自己嫌悪に襲われながらも準備をしていると、アシスタントの後輩とそれから少し間を置いて彼がやってきた。昨日より浮腫んでいる顔に昨日のことを思い出して、喜べばいいのか、悲しめばいいのか、よくわからないぐちゃぐちゃの気持ちになる。 「おはようございます」 「おはようございます。昨日、ちゃんと帰れました?」 ぎょっ。 元々頭痛が激しい頭が、彼の言葉の衝撃で割れそうになった。思わず彼の背後にいるマネージャーさんに目を向けると、特に気にした様子もなく、むしろ私が視線を寄越したことに不審そうな顔をする。 「あ、はは。一応、帰れました」 「良かった。体調はどうです」 なんでそんなに色々聞いてくるのよ、と彼へ少し冷ややかな視線を向けるも、なぜか楽しそうに顔を綻ばせていた。それはからかっているというよりも、本当に楽しそうなだけというか。 あまり見ていても目に毒だ。 そんなことを思う自分を心の中で平手打ちしつつ、ニコニコしてなんともないです、と頭痛が止まらないのに大嘘をついた。
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