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思えば、彼に久しぶりに会ったとき一番最初に思ったのは、悔しいだったような気がする。
その悔しいという感情は、まるで彼が美しく光る宝石のようになっていたのを目の当たりにしたときに湧いて出てきた。
私は、彼が変わるのが嫌だったわけではない。むしろそれを望んでいた。
いつもどこか自信がなくて、高い背を無意識に曲げて、誰にも見られたくないと言いたげだった彼。
そんな彼が勿体なく思えて、いつも私がお節介と趣味で彼の事をスタイリングしていた。服も髪も、彼に似合いそうで彼も気に入ってくれるようなものを。
そうした時の彼が笑ったとき、あの瞬間が大好きだった。
だから、叶うならば私は彼が自分の魅力を肯定して、自分のことを隠さなくなっていくのを一番前で噛り付きで見たかったのだ。
それを見ることができず、研磨された彼を見て悔しいと思った。
それは、恋慕の未練よりよっぽど悍ましく執念深い未練な気がして、その薄汚さすら感じる自分の感情に嫌気どころか吐き気がする。
彼と再会してからというもの、私はずっとおかしくなったみたいだ。こんな傲慢なこと、思わなかったはずなのに。
「玲央、食事したら台詞合わせできる?」
「あ、いいよ。なんなら食べながらしようか」
映像のチェックだとか、小道具の確認だとか、色々な理由で撮影は一度中断になり、それを理由に休憩を取ることになった。
丁度昼時なわけで、李衣菜や有城くんと食事へ行こうとしたとき剣継さんと彼がそんな話をしているところを見てしまった。何とも間が悪い。
隠れる必要もないのになぜか壁から覗くように二人を見る。
やはりお似合いだ。
それはただ二人とも造形が整っていて美しいだけではなく、空気感というか、隣に立った時しっくりと来る何かがある。華というやつだろうか。
「なにやってんだよ」
勝手に分析し、勝手に気落ちしていると背後から不信感を隠さない声が聞こえてきて振り返る。
「あっ、有城くん!」
「ん。なに、覗き?」
「いや、これは別に……ご飯行こ」
「丁度俺も誘おうと思ってたとこ。加賀美先輩待っとくか、もうすぐ来そうだけど」
少し彼らの方へ視線を向けると、相変わらず楽しそうに話している。ぎゅっと強く心臓を掴まれているような気分になって、もうこの場から一刻も早く離れたかった。
「先行ってよう! 李衣菜には連絡するから」
有城くんの手を掴んで外へ急ぐ。
後ろから困ったような声が聞こえたけれど、一度知らないふりをしておいた。
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