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宰相に手で示されたのは、地面に空いた穴だった。あまり大きくはないが綺麗に正方形に掘られていて、壁の土が崩れないようにすべて硬い木でしっかりと固められている。銀でできた梯子がかけられ下まで降りられるようになっていた。穴の底には真っ赤な絨毯、椅子や卓、ワインや食べ物がたくさん置いてある。城の一室に負けず劣らずの豪華な装飾に国王の機嫌がまた少し直った。
「見た事のない宝だ」
「いつか国王を驚かせようと、コツコツ集めていました」
国王は嬉しそうに梯子を降りる。足場もしっかりして、秘密の場所のようでワクワクしていた。
「国王の右手にあるのは職人が仕上げた最高級の靴です」
「真っ白で美しいな!」
「国王のためだと言ったら腕によりをかけて作り上げてくれました」
「まさに余にふさわしい」
「仰るとおりです」
他にも水差し、ワイングラス、極上の酒、美しい装飾がされた剣や盾、すべて国王のために作れと宰相が命じたところ職人たちは喜んで作ったと言う話だ。その話に国王も上機嫌に笑う。
「では国王、降らせますのでご覧ください」
宰相の掛け声に、金、銀、ダイヤモンド、ルビー、サファイア、エメラルド。沢山のお金や宝石が舞う。当たっても痛くないように小粒にととのえられていて、とても美しい光景だ。
「おお、すごいな!」
太陽に照らされてきらきら輝く宝石。それはまさに星が降ってきているかのようだ。国王は子供のようにはしゃいで喜ぶ。
「まるで星空のように美しい、太陽の下で星空を見ることができるのは国王である余だけだな! 星降る国と呼ばれる我が国にふさわしい景色だ!」
「そうですね。満足しましたか?」
「満足だ! 褒美をやるぞ!」
「満足したのですね、良かった良かった」
宰相はパンパンと手を二回鳴らす。すると穴の周りをぐるりと囲むのは平民たちだ。雑巾のようなボロボロの布を纏いガリガリに痩せて。しかし目はギラギラと輝き血走っている。それでいて、全員ニコニコとうれしそうに笑っていた。
「さて、すべての副葬品を入れ終わった。始めようか、埋葬を」
そう言うと平民たちが自分の手や道具を使い一斉に穴に向かって凄まじい量の土を降らせて穴を埋め始めるのでした。いろいろな思いがこもっているのでしょう。凄い数の平民が集まり、そりゃもうびっくりする速度で土をかけています。剣を投げつけ、石ころくらいある宝石をすごい勢いで投げつけています。
とても豊かな国の国王は、民の手で埋葬されると言う最高の最期を迎えることができました。装飾品も埋葬品もすべて、国王埋葬の為だと言われて皆嬉々として仕上げた一級品ばかりです。
数百年経って誰かが掘り返した時、それはそれは豪華な装飾品と一緒に巨大な棺が見つかるので、さぞこの人物は民から愛されていたのだろうということになる予定です。
数百年経っても幸せの国と語り継がれるのなら、幸せなことですよね。めでたしめでたしじゃないですか。
ねえ? 国王様。 我ら平民が味わっている土の味はいかがですか?
END
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