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誰かに背中をドンと強く押された。人だかりの中に男子学生が笑うのを見た気がした。あれは、あの男子学生はーー。悲鳴と電車のブレーキ音が私の思考を掻き消した。
「どうしました! 大丈夫ですか!」
「えっ」
罪悪感から来る妄想だったのか、目を開けると電車に轢かれてなどいなかった。
「……桜井さん? 何で」
「あのまま放っておくわけないでしょう。立てますか」
「……」
「あなたには聞きたい事が沢山のあるんですが、まずは病院に急ぎましょう」
「由香の?」
「そうです」
「……ありがとうございます」
「いえ。依頼人の為ですよ」
須藤の運転で由香が運ばれた病院へ急ぐ。ラジオでは、事件の続報が報じられていた。それでも二人は何も言わずに運転していた。
「私の夫……いえ、由香の叔父が全ての事件の始まりだったのだと思います」
信じていた叔父に乱暴された由香の絶望は計り知れない。
「それ以来、由香は自分を否定するものや、裏切られる事に怯えていた。だから、初めて好きになった人に拒絶された時、感情が暴発したみたいになってーー気付いたら相手を殺めてしまっていました」
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