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夫をナイフで刺した時、高校からの友人の佐々木由香との約束を思い出していた。
『お互い結婚しなかったら一緒に住もうよ』
高校二年の夏、好きだった人が別の女子と付き合い始めたと知った由香が、ひとしきり泣いた後に言ったのだ。
私は一生、結婚しなくても良いって思った。
胸に赤く広がった血が少しずつ乾き始めていた。時計を見ると夕方の四時だ。いつも仕事で帰りが遅い夫が急に帰って来たのが午後二時半過ぎだった。部屋の片付けがなってないと殴られ、エプロンのポケットに隠していたナイフで刺した時、三時のニュースが始まった。
「由香、由香に連絡しなきゃ」
震える手で携帯電話を握った。
『……奈々、ちょうど良かった。今、そっちに向かってる所よ』
「え? どうしたの急に」
『急ぎで二人に相談があって……そっちの用件は?』
「……康介さん、殺しちゃった」
『……嘘でしょ……本当に?』
「うん」
由香が電話の向こうでショックを受けているのが分かった。
「今日も殴られて、それでナイフで……」
『怪我してるだけじゃないの。ちゃんと確認したの』
「目が……」
『目がなに』
「開いたままなの」
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