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俺は街を何気に歩いていた。散歩、漫ろ歩き、逍遥と言う奴か。途中で色んな嫌気が差すことを凝縮して目撃した。見るからにきもい奴が駆けて来て擦れ違った者を刺した。通り魔やな。かと思うと、道端に倒れる者がいる。熱中症やな。かと思うと、雲霞の如く踊り狂う者たちがいる。感染リスクがあるのに阿波踊り利権を守ろうと経済団体が踊らしてるんやな。かと思うと、咳き込んでる者がいる。コロナに感染したんやな。かと思うと、みすぼらしい身なりで自転車を漕ぐ者がいる。ホームレスやな。かと思うと、俺に寄って来る者がいる。キャッチやな。かと思うと、ビルの屋上から飛び降りる者がいる。飛び降り自殺やな。かと思うと、態々二メートルも離れて会話してる者らがいる。空気感染がメインの感染ルートとは知らないんやな。かと思うと、女連れのカシミアスーツを着る者がいる。パパ活や中抜きをするネオリベやな。かと思うと、東京五輪Tシャツを着る者がいる。東京五輪汚職を知らないんやな。かと思うと、旭日旗がプリントされたTシャツを着る者がいる。電通のネトウヨ部隊の一員やな。かと思うと、金バッチを付けた背広姿の者がいる。旧統一教会とズブズブの仲の衆議院議員やな。かと思うと、目の前の建物が燃えだした。放火魔やな。かと思うと、遠くのビルが炎上した。爆破テロやな。かと思うと、サイレンが聞こえて来た。消防車やな。かと思うと、コンビニに乗用車が突っ込んだ。誤発進やな。かと思うと、救急車が停まってる。搬送先がないんやな。かと思うと、トラックが暴走していく。飲酒運転やな。かと思うと、パトカーが暴走していく。追跡やな。かと思うと、乗用車が歩道に突っ込んだ。轢き逃げやな。電柱に激突して不動となった車から降りて逃走して行きやがる・・・日本人って相変わらず足短いよな。かと思うと、タクシーがやって来た。俺は手を振って呼び寄せて乗った。俺は何々町までやってくれと告げた後、何気に聞いた。
「おい、運ちゃん、お前の子供、足短いか?」
「お客さん、いきなり何です。頭可笑しいんですか?」
「俺より可笑しいのは一杯いるよ。少なくともブレインフォグよりはマシだよ」
「そうですか」
「おい、お前の子供、出っ歯か?」
「お客さん、失礼千万ですよ」
「俺より失礼な奴は腐る程いるよ」
「そうですか」
「おい、お前の子供、出っ歯ってことは娘だろ、おっぱい大きいか?」
「へへ、確かに娘はいますけどね」
「じゃあ、グラビアアイドルになれそうか?」
「お客さん、ほんとにさっきから何聞いてんですか?」
「だって最近のグラビアアイドルにしてもAV女優にしてもおっぱい大きいのはざらにいるけど、相変わらず足が短くておまけに出っ歯だろ」
「そうなんですか?」
「お前も娘を過保護にしている内の一人で口の方も過保護にして柔らかい物ばかり食べさせて下顎が発達しないもんだから上の歯が下の歯より通常以上に前へ出てしまうんだ。で、見っともないアヒル口になるんだ」
「そうなんですか」
「そうなんですかじゃねえよ。そういう所を見ると、お前、グラビアアイドルもAV女優も観ねえのか?」
「観ないですね」
「真面目に家庭生活を営んでるのか?」
「そうですね」
「不自由だな。不幸だな。世間知らずだな。知らぬが仏だな」
「・・・」
「ほんとにおっぱい大きいだけで何にも好いことねえよ。金なんか払ってられるか!」
「えっ、お客さん、聞き捨てならないですね」
「許さない?」
「絶対許さないですよ!」
「タクシー代じゃねえよ。オッパブ代だよ」
「ああ、オッパブに行くんですか?」
「お前、オッパブ知ってんのか?」
「行った事あります」
「じゃあ、真面目じゃねえじゃねえか」
「結婚前ですよ」
「結婚は人生の歯か馬鹿?」
「・・・」
「図星のようだな」
「・・・」
「ハッハッハ!」俺は優越感に浸った。「この御時世だ。おっぱいしか好いもんはないよな」俺はこれが言いたかっただけである。と言いながら夜でもエアコンつけっぱなしで窓締め切った家がほとんどの中で草叢で集くコオロギや鈴虫の音色に耳を傾け、涼むことが出来、そんな些細なことでも楽しめる風流人である。都会では考えられないだろうね。そんなことでも優越感に浸れる唯一無二と言って良い俺であった。
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