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お前には、失望したくない。
頭で考えるより先に身体が動いてしまう
俺にとって、彼の存在は脅威そのもので。
彼と関わりを持つことで、
自分がどう変わらざるをえなくなるのか、
予想もつかなかった。
だからあの夜、彼に対して如何ともしがたい
思いを抱き、常識では考えられない行動を
とってしまったのも、自分の力が及ばない
何かが起こり始めているせいだと
受けとめるしかなかったんだ。
敵情視察と称して、求人広告チームを
訪れた翌日。
つまり、配属初日。
いつもより早く出社した俺は、
偶然彼をビルの入口で見かけることになる。
「あ」
声をかけるべきか迷い、
挙げかけた手が宙を舞ったが。
結局、凛とした彼の横顔をただ見送り、
見つからないようにそっと柱の陰に
隠れてしまった。
俺はいったい、何をしているんだろう。
いつものペースが崩れっぱなしで、
どんな顔をして彼に会えばいいのか
判らなかった。
神部さんの言う通り、
「味方にしなきゃならないメンバー」の
ひとりで。
それ以上に、最大のキーパーソンである
ことは間違いない。
『リア充のあなたに、求人広告の重要性が
理解できるんですか?』
痛いところを突かれ、
何も言えなくなったあの瞬間から、
彼に負けてしまっていると感じていた。
「あー、ホント、俺らしくないっ」
独りなのをいいことに、心の声をそのまま
言葉にした。
エントランスの自動ドアを抜け、
IDカードで入管ゲートをくぐり、
靴を鳴らしながらエレベーターホールへ
向かう。
エレベーターに乗り込み6階のボタンを押し、
早まる鼓動と闘うようにその場で足踏みする
俺は、傍から見ればとても間抜けな奴
だっただろう。
とはいえ、6階に着き、
フロアと廊下を隔てる硝子戸を開く頃には、
緊張はすっかりなりをひそめていた。
(そうそう、これが俺よ)
先に席についていた彼に向かって、
満面の笑顔で声をかけた。
「おはようございます、川瀬です。
今日からよろしくお願いします」
「あ、はい・・・よろしく、お願いします」
戸惑いを顔全体に貼りつかせて、
俺を凝視する彼。
気にすることなく、次の言葉を投げた。
「あの、どこに座ればいいんでしょう?」
「え」
「僕の席を教えてください。とりあえず、
荷物を置きたいので」
「あ・・・じゃあ、ここで」
そう言って彼は、自分の席の隣を指し示した。
机の上は乱雑に積まれた書類でいっぱい、
物置と化しているそこが俺の席?
予想以上の待遇の悪さに内心唖然としたが、
整理整頓は得意だ。
ここは前向きに、就業時間が始まる前までに
片付けてしまおうと意志を固めた。
「岸野さん。少し片付けますけど、
部署で要る物要らない物の分別を
お願いしてもいいですか?」
「・・・あの、それほとんど、
僕の書類なので」
「あ、そうなんですか?じゃあ、撤去を
お願いします」
「はい・・・すみません」
すっかり恐縮した様子で、背中を丸め、
机に積まれた書類を少しずつ自分の机に
移動させる彼を見て、違和感を抱いていた。
(昨日のあの勢いは、どこに行ったんだよ?)
毅然としていて、隙が無い。
この俺に二の句も告げさせないくらいの
破壊力を伴うセリフを発した人間とは、
とても思えなかった。
「急がなくていいですよ?って、
終わっちゃっいましたか」
本心とは裏腹に微笑んでみせれば、
彼はこちらを向いて机の下にあった雑巾を
手渡してきた。
「引き出しは、きれいですけど、
筆記用具とかもないので、必要な物は、
総務でもらって、きてください・・・
あと、これ」
「え?」
「良かったら、机の埃を、拭いてください」
「ありがとうございます・・・じゃあ、早速」
差し出された雑巾を片手で受け取り、
持っていた鞄を机の一番下の引き出しに
しまいこみ、硝子戸へと向かう。
ドアを開き廊下を出たところで彼を見ると、
うつむいて積み上げられた書類を眺めていた。
(実は)
迫力に呑まれてはいけないと気負った分、
拍子抜けしたのは否めないという印象以上に、
抱いた事があった。
(あいつ、人見知りなんじゃないか・・・?)
たどたどしい言葉、終始泳ぎまくる視線。
こっちが申し訳なくなるくらいの弱気な姿を
見て、感じとった。
それならどうして、あんな強気な言葉が
出たんだと疑問にさえ思わずに。
(それなら、もっと気を使って優しくして
やらないとな)
すっかり勝ち誇った気持ちで、廊下を歩いた。
(何、始めてんだよ)
そのやり取りがあった数十分後。
彼の本性を掴んだ気になっていた自分の甘さを、
恥じることになる。
業務開始早々の、グループミーティングで。
「おはようございます。じゃあ、今日から
新しくこの部署の仲間が入って来たので、
挨拶をしてもらいましょう」
先程とはうって変わっての彼のはっきり
した声に導かれ、自己紹介を始めた。
「はじめまして。11階の第一営業部
営業1課から来ました、川瀬由貴です。
求人は判らないことだらけで、
ご迷惑をかけることも多いとは思いますが、
どうぞよろしくお願いします」
定石通りの言葉の後、まばらな拍手があった
次の瞬間。
「さて。とりあえず、川瀬さんには何を
お願いしましょうかね。皆さん」
彼の言葉をきっかけに、貝のように口を
閉ざしていたメンバーが笑いながら、
俺を取り囲み始めた。
「原稿は、書けるんですか?」
「原稿は読めるんですか?の間違いでしょ」
「営業1課ってことは、営業力はあるん
でしょうね」
「フットワークの軽さだけが、取り柄ですって
感じですか?」
「あと、夜の強さとかね」
「ははは、朝から飛ばしますねえ」
「というか、何でここに来たんですか?
誰も望んでないのに」
「陰謀ですよ、この部署を潰そうとしている
上席の連中のね」
「誰が来ても、無駄なのに・・・
救いようのない奴らばかりだ」
「まあ、しばらく遊んでやって、
また再起不能にしてやればいいんですよ」
「これで何人目です?もう数えられない
ですよ」
今まで、癖のある人との関わりはうまく
やり過ごせてきた俺が、不気味な集団の
暴言に圧倒されていた。
彼はと言えば、黙ったままこの光景を
眺めている。
(首謀者は、お前なのか・・・?最低だな)
彼に視線を合わせ睨みつけることで、
わずかな抵抗を示した。
彼の瞳は動きを止めたまま、
薄く青白い唇だけが、静かに動いた。
「川瀬さん」
「はい」
「僕らを今、あなたは最低な人間だと
思ったんでしょう?でもね。僕らは才能
あふれる集団なんです」
「そんな才能あふれてる奴が、
人をイビっていい訳?」
腹が立つ余り、思わず彼に向かって
タメ語を使っていた。
俺を取り巻いていた奴らが、凍りついたのが
判った。
「確かに俺は、この部署をバカにしてたよ。
でもそれは昨日までの事だ。
ここのホームページを、俺は1日がかりで
全て目を通してきた。
それを見た俺の感想を率直に言うよ。
お前らのやってる事は、たかが1200文字の
求人原稿なんかじゃない。
何一つ同じ表現のない、いわば芸術作品だ。
少なくとも、俺はそう思ってる。
原稿を書くことへの半端ないプライドと
エネルギーを感じたよ。
並大抵の気持ちで書いてる訳じゃないって
思った。
今までどんな辛い目に遭ってきたのかは、
知らない。
でも、これだけのスキルを持っていることを、
もっと認めてもらおうって思わない訳?
来る人来る人に厭味を言ってばかりで、
素直な気持ちで人と向き合うつもりは
ないの?
俺は営業しか取り柄がないし、
お前らに『こんなことも知らないの』
って笑われることもあるだろうな。
でも逆に、俺はどうやってこの広告
スペースを取ればいいかを教えてやれるよ。
『こんな原稿を広告にしたい』って
いうのを形にしてやれるかも知れない。
すぐに仲間にしてくれとは言わないけど、
お前らを嫌いにはなりたくない。
仕事仲間だからな」
「・・・さすが、営業さんですね。よく喋る」
微笑んでいるつもりなのか、口元を歪ませ、
細身の身体を小刻みに揺らし始めた彼に。
俺は強い意志を持って、言い放った。
「岸野。特にお前には、失望したくないと
思ってるんだけど」
「そうですか。それはどうも」
一瞬、彼の瞳が揺れた気がしたが、
すぐに彼は俺から目を逸らし席に着いた。
「とりあえず、今日の分の原稿振り分けを
始めます。皆さんも座りましょう」
彼の合図と共に、
他のメンバーもそれぞれの席に座る。
俺も慌てて彼の隣の席に座り、
彼の顔を改めて見つめた。
彼はもう俺に目をくれる事もなく
レジュメを配り、淡々と説明を始めている。
今思えば、
この出来事が俺の心に変化を起こしたのだ。
岸野葵という、今までの自分なら異物で
あると排除すべき対象を無条件に認めていた。
「特にお前には、失望したくない」
-まさか自分の口からこんな言葉が出てくる
とは思わなかった。
放っておいても周りから勝手に付いて
こられていたから、執着とかこだわりと
いうものには縁が無いと思っていた。
女性に対しても、
文字通り「来る者拒まず、去る者追わず」の
精神で、ドライな付き合いしかしてこなかった。
それなのに。
(・・・こいつ、やっぱりタダ者じゃない)
ミーティング中、俺は彼の顔だけを
見つめていた。
俺の手腕をかっての抜擢とはいえ、
実際はとても気になっていたのだろう。
配属から1週間後、
神部さんが求人チームにふらりと現れた。
「川瀬、元気か?-ちょっといいか、
岸野。彼を借りて行っても」
男の俺でも惚れ惚れしてしまうルックスの
神部さんにウィンクされ、どぎまぎして
しまった彼を尻目に、
揚々と神部さんの後をついていく。
11階の休憩室、午後3時。
ちょうどコーヒーブレイクをする時間で、
訪れている人の数は多かった。
「ゆっくり、話を聞いてやらないとって
思ってたんだ」
紙カップのコーヒーを片手に窓際の席につくと、
神部さんが笑顔で口を開いた。
「ありがとうございます・・・」
「何だ?まだ慣れないか。というか、
外回りはしてないのか」
「はい。まだしばらくは、求人の知識を
彼に」
「なるほどね。だから、少し疲れた顔を
しているのか」
「はは。判ります?-だって、この時間は
今までなら確実に外ですよ?1日オフィスに
閉じ込められるのは、本当に勘弁です」
「川瀬らしいな。今夜、久し振りに
飲みに行くか?」
「はい!ぜひ!!」
「18時半にここで待ってろ。
場所は、お前の好きな表参道にしよう」
「楽しみにしてます」
「あと3時間ちょっと、頑張れよ」
「ありがとうございます、頑張ります」
神部さんと笑顔で別れ、フロアに戻る
エレベーターの中。
(・・・彼のこと、話してみよう)
あの一件以来、彼の「豹変」は鳴りを
ひそめていた。
そして夢だったのか?と思ってしまうくらい、
静かになったチームのメンバー。
それが却って、フロアでの居心地の悪さを
増長させていた。
「なるほどね・・・噂では聞いていたが」
俺の話を聞いた神部さんはそう言ったきり、
言葉を飲み込んでしまった。
19時、表参道の某スペイン料理店。
こんなことがなければ、きっともっと楽しい
はずの飲み会だというのに。
1週間前の朝に彼らが起こした一件を、
ありのまま話した。
「え、やっぱり何人も辞めさせてるって
いうのは本当なんですか?」
「いや、それはあくまでも結果だから。
直接の原因とは限らない」
上司らしくストレートな表現を避けた
神部さんは、俺の顔を見て言葉を続ける。
「お前は、大丈夫か?参ってないか」
「大丈夫です。俺が怒ったからかなのか、
あれっきりないんですよ」
「・・・岸野は」
「例の発言をされた次の日の朝、2人きりで
少し話したんですけど。
ものすごくおとなしくて、人見知りゆえの
発言だったのかなって思うくらい・・・
でも、その後あの攻撃なので。
彼、いい文章を書くのに勿体ないですよね。
たぶん、病んでますよ」
吐き捨てるように彼の事を言ってから、
何故か胸が痛み始めるのを感じていた。
神部さんはそんな俺の心の中の違和感に
気づくことなく、更に俺に問いかけてくる。
「今、お前は何の仕事をさせられてる?」
「今日までは求人サイトの更新とか、
求人原稿の校正とかですね。
来週からは取材同行らしいです」
「岸野とか」
「そうですね。何かそんな事を帰りがけに
話してました」
「大丈夫か」
「ええ。神部さんに見込まれて、
あそこに配属されたんですから。
自分ができるところまでは、頑張らないと」
そう微笑んだ俺に、神部さんは驚きに満ちた
表情を見せた。
「・・・川瀬、変わったな」
「俺、意外とこの部署の仕事楽しいなって
思ってるんです。これは自分でも驚いて
ますけど」
「楽しい、か。たぶん、岸野との相性が
いいんだな」
「何を言ってるんですか?そんな訳ない
じゃないですか」
一瞬、神部さんの顔が曇ったような気がしたが、
空きっ腹にビールをあおったせいで
酔いが回り始めていた。
「とりあえず、明日明後日は休みなので、
かんぱーい」
わざと明るい声を出して、
神部さんのビールジョッキに
自分のビールジョッキを当てた。
はしゃぎながら、
俺は言葉にできない思いを抱いていた。
(どうして、俺はここで大好きな先輩の
神部さんと楽しく飲んでるのに、
彼の顔が離れないんだ)
数分後。
俺のスマホの画面に、
着信を知らせる表示が浮かんだ。
「川瀬、電話が鳴ってる」
「あ。会社からです・・・というか、
今残っていそうなのは」
「岸野か」
「何ですかね。さっさと帰ればいいのに、
こんな週末まで仕事ですかって」
「いいから、出ろ」
「はーい・・・もしもし?川瀬です」
次の瞬間、
俺の明るいトーンとは裏腹な声が響いた。
『訊きたいことがあるんですが・・・』
「あれ?もしかして、岸野さんですか?
こんな時間に、僕に何の用です?」
やきもきさせられているお返しだとばかりに、
わざと絡んでやる。
怒られても、酒のせいだと言えば
それで済むと思った。
『・・・飲んでるんですね、すみません。
あの、あなたの机の鍵、どこにあります?』
「はあ?何でですか?僕が持ってるに
決まってるでしょ。僕の席ですよ?
僕が持ってるの当たり前です」
『そうですよね。実は、あなたの机の
引き出しの奥に、僕が大切にしていた本が
挟まっていて。どうしても、それを
取り出したいんです』
「えー、大切な本が挟まってるんですか?
大切な本なのに?取り扱いがおかしい
ですねえ」
『何とでも言ってください。
とりあえず、今どこにいますか?
取りに伺います』
「取りに伺います?ここに?
表参道ですけど?
わざわざ来なくっても、いいですよ」
とんでもない事を言う奴だと
笑い飛ばそうとしたのと、彼の言葉が重なった。
『じゃあ。これから僕に、
会いに来てください。川瀬さん』
一気に、酔いが吹っ飛んだ。
「川瀬、どうした?」
それまで様子を見ていた神部さんが、
怪訝そうな顔で俺を覗きこんだ。
我に返り、電話の向こうで俺の返事を
待っている彼に、こう答えた。
「いいよ、待ってて」
「川瀬?」
電話を切り、ズボンのポケットから
財布を取り出すと、5000円札を
神部さんに渡した。
「すみません。行かないと」
「お、おい。会社に戻るのか?」
神部さんの慌てた声に、笑顔で手を振った。
早足で店を出て、大通りでタクシーを拾い、
乗り込んでから腕時計を確認する。
19時55分、ここから会社までは
道が混んでなければ5分の道のり。
さっきからずっと、彼の声が耳に残って
離れなかった。
『じゃあ。これから僕に、
会いに来てください。川瀬さん』
何が俺を突き動かしたのかは、
今でも判らない。
でも、その時は単純に行かなければ
ならないと思った。
カードキーを使ってエントランスを抜け、
エレベーターに乗り込んだ。
金曜日の20時と言えば、
まだまだ残業をする人が多い時間だが、
6階の廊下に降り立つとそこはひっそりと
静まり返っていた。
(・・・本当に、いるのか?)
フロア前の硝子戸をそっと覗けば、
求人チームの島だけライトが
点いているのが見えた。
ドアを開き、足を踏み入れる。
彼の後ろ姿に声をかけようとしたのと、
彼が振り向くのが同時だった。
「・・・川瀬さん」
「本当に、格闘してるし」
涙目で俺を見る彼の姿に、
思わず苦笑いした。
彼の傍らには、プラスチック製の
30センチ定規、厚紙を切ったもの、
どこから調達してきたのか竹の棒。
「そんなに大切な本を、
どうして机の引き出しにしまったんでしょう」
「・・・答えなきゃ、いけないことですか」
「人にわざわざ来てもらって、
その態度ですか?鍵、ここにありますよ」
指先で鍵を弄びながら、彼に微笑むと。
すっかり観念した様子で、彼がうなだれた。
「整理整頓が苦手、だからです」
「よくできました」
彼の手を掴んで、鍵を握らせる。
「まだ、仕事なんですか?
もう、このフロア誰もいないじゃないですか」
鍵を受け取ったからなのか、
背中を向けた彼は俺の問いかけに
答えなくなった。
鍵を開き、引き出しを引っ張ると、
机の向こう側に明らかに本のようなものが
落ちた音がした。
机に潜り込んだ彼に、
俺はもう一度声をかけた。
「どうして、俺を呼んだんですか?」
そして、持っていた鞄を床に置いてから、
机の下の彼に近づいた。
相変わらず、彼は答えない。
しゃがみこみ、
彼の背中に指先でそっと線を描いた。
「早く、答えて」
ゆっくりと机から身体を抜いて、
俺と向かい合わせで座った彼は、
赤面していた。
「別に、今夜絶対必要だった訳じゃない
ですよね、この本が」
彼が手にしていた本は、
会社の就業規則が書いてあるハンドブック。
「嘘はいけないなあ、嘘は」
そう言いながら、俺は彼の手から
それを抜き取った。
「で、どうして俺を呼んだんですか?」
「それは」
いたたまれなくなったのか、
彼は俺から目を逸らした。
「あなたが、あんな事を言ったから」
「・・・あんな事?」
「失望したくない、っていう意味、
あれは何なんですか?」
彼も気づいていたのか、あの言葉の違和感に。
俺は彼の問いにはすぐに答えず、
彼の肩に手をかけた。
そして身体を震わせながらも、
俺をまっすぐ見据えた彼に微笑む。
「それを、こういう意味で捉えたんですか?」
「あ、川瀬さん」
彼の背中に腕を回し、そっと抱きしめた。
「会社では、マズイよねえ・・・?こんな事」
すぐに彼の身体を離し立ち上がると、
彼の手を取った。
「じゃあ、行こうか」
「どこに」
手を掴まれたまま立ち上がれずにいる
彼に俺は微笑んで、こう言った。
「君が望んでいるところだよ」
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