第二話 雨音は死者の声 二

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第二話 雨音は死者の声 二

 俺は陽洋のディナーが終ると、片付けを済ませ、明日のモーニングの準備もしておいた。すると、塩家が店内の掃除を終えてやってきた。 「水瀬、家に帰らないのか?」 「帰るよ」  陽子は、先に帰っていて店内には俺と塩家しかいない。俺が、陽洋のコックの中では一番の下っ端なので、それは仕方がない事だ。だが、陽子はタクシーで帰って欲しいと、封筒を置いていった。中身を確認すると、タクシーチケットが入っていて、メモでお疲れ様と貼り付けてあった。 「タクシー、呼ぼうか?」 「いや、自転車で来ているから…………」  しかし、俺が外を見ると、雨になっていた。それも、かなりの雨量で土砂降りにも近い。 「タクシーを呼んだよ」 「ありがとう」  戸締りをして外に出ると、当たり前のように塩家も一緒にやって来た。 「……………………塩家。陽洋の二階の部屋を借りたと聞いたけれど?」 「まだ完全に空いていなかった。前の住人が、今週末、荷物を運び出すそうだ」  陽洋の二階には、俺も長く住んでいた。住居用の部屋は二部屋あり、俺の他に敦賀という従業員が住んでいた。しかし、その敦賀は実家に帰って農家を継ぐ事になった。 「俺が使っていた部屋があるだろう」 「それは、ダメだと陽子さんが言った。洋平さんが仮眠室に使っている」  タクシーが来ると、塩家も一緒に乗り込み、夕食の弁当を抱えていた。 「これは、陽子さんが一緒に食べろと持たせてくれた」  陽子も、塩家に甘い。
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