第二話 雨音は死者の声 二

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 音楽祭では食べ物や、グッズも売られていて、子供向けの玩具も記念品として配られていた。だから、当初はパラパラと人が抜けてゆき、次の入場者がやって来る予定だったのだろう。  しかし、実際には雨のせいで、一気に家族が帰ろうとした。 「入口ゲートは三つ用意されていた。しかし、途中退場出口は一つしかなかった」  音楽会の終盤は、柵が片付けられ、自由退場になる予定であったので、途中退場のゲートは一つしかなかった。そこに、家族が殺到した。 「そして、退場の最中に次の曲が始まり、子供達が雷と間違えた」  光と音が重なり、子供達が悲鳴を上げる。そして、一人が走り出すと、つられて幾人もが走り出した。 「駅までダッシュする家族が相次ぎ、駅に抜ける道が渋滞になった」  そこに運悪く、駅前に続いている地下通路があった。地下通路は身動きも取れない程に混み合い、走り込んできた人がぶつかり、階段で将棋倒しとなった。  逃げ場が無かったので、中に押し込まれ、動けない状態になった。消防とレスキューが呼ばれ、入場を止めて救助された時には、五人が意識不明になっていた。 「大人は圧迫が原因で、子供は踏まれて、意識不明になっていた。怪我人が三十三人」 「建物というよりも、運営にも問題があったような感じもする。でも、大きな要因は雨だよな」  偶然が重なって、大事故になる。 「雨が引き金をひいたという事。誰もが、それは納得した。しかし……」  運営は、多くの想定をしなくてはいけない。それと、場合によっては、臨機応変な対応が必要だったのだろう。  でもそれだけでは、相良も塩家に相談しなかっただろう。 「それで、塩家さんの相談は何だった?」 「これと同じような事故が、他でも発生している。それは、偶然なのか聞いてきた」  相良の設計した建物で、他にも似た事例があったらしい。そこで、相良の設計が疑われていた。 「それは、相良さんの他の設計でも発生していた?」 「そうだ。でも、何かが変だった……」  それは、場所や状況が違っていても、いつも雨の日だったらしい。
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