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俺の両親と祖父母は、反応を始めた瞬間は、水になった日のままの記憶しかないらしい。そして、暫くすると、その後の経過を思い出してくるという。
「あの保管されている水のままだと、新しい記憶が書き込めないのかもしれないな」
「水を足すか…………」
だが、普通に水を足すと、薄まってしまい自我を保てない可能性があるという。
「海水にするか」
「塩分の問題ではない」
塩で思い出したが、いい塩を買ってあった。今日は、この塩でドレッシングを作ってみよう。
「塩家、正式に陽洋のスタッフになったのか……」
そういえば、陽子がそんな事を言っていた。
「そうだ。でも、まだ芸能事務所に登録があって、脇役だけど役者はしている」
テレビに出るような事はないが、舞台には出ているらしい。
「最近、コントなども頼まれている」
「塩家が面白いか?」
しかし、塩家は完璧になりきるので、リアルに面白いらしい。
「ちょい役だけど、映画の話もきている。それでは食っていけないけどな」
塩家は演技が下手なのではなく、問題が多いのだ。それに、悪い噂も多い。
「枕営業を減らしたら仕事が来るというのは、皮肉だな」
「脇役なんて、そんなものでしょう」
陽子がオープンの看板を振ったので、そろそろ客がやって来る。俺は料理を並べると、サラダを容器に詰め始めた。
「おはようございます。ご来店ありがとうございます」
塩家が挨拶しているので、一番乗りのお客様が来たらしい。そして、昼過ぎまで客が途絶える事がなかった。
昼過ぎ、クローズの看板を出すと、俺は賄い料理を食べる事にした。考えてみると、今日はまだ何も食べていなかった。仕入れなどでバタバタしていたので、腹が減っている事にも気付いていなかった。二階に上がって、自分が作ったサラダを一口食べてみると、思い出したかのように、急に腹が減ってきた。
「おいしい…………」
野菜が染み入る。だが、ゆっくりもしていられないらしい。
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