第二話 雨音は死者の声 二

8/9
前へ
/203ページ
次へ
 俺の両親と祖父母は、反応を始めた瞬間は、水になった日のままの記憶しかないらしい。そして、暫くすると、その後の経過を思い出してくるという。 「あの保管されている水のままだと、新しい記憶が書き込めないのかもしれないな」 「水を足すか…………」  だが、普通に水を足すと、薄まってしまい自我を保てない可能性があるという。 「海水にするか」 「塩分の問題ではない」  塩で思い出したが、いい塩を買ってあった。今日は、この塩でドレッシングを作ってみよう。 「塩家、正式に陽洋のスタッフになったのか……」  そういえば、陽子がそんな事を言っていた。 「そうだ。でも、まだ芸能事務所に登録があって、脇役だけど役者はしている」  テレビに出るような事はないが、舞台には出ているらしい。 「最近、コントなども頼まれている」 「塩家が面白いか?」  しかし、塩家は完璧になりきるので、リアルに面白いらしい。 「ちょい役だけど、映画の話もきている。それでは食っていけないけどな」  塩家は演技が下手なのではなく、問題が多いのだ。それに、悪い噂も多い。 「枕営業を減らしたら仕事が来るというのは、皮肉だな」 「脇役なんて、そんなものでしょう」  陽子がオープンの看板を振ったので、そろそろ客がやって来る。俺は料理を並べると、サラダを容器に詰め始めた。 「おはようございます。ご来店ありがとうございます」  塩家が挨拶しているので、一番乗りのお客様が来たらしい。そして、昼過ぎまで客が途絶える事がなかった。  昼過ぎ、クローズの看板を出すと、俺は賄い料理を食べる事にした。考えてみると、今日はまだ何も食べていなかった。仕入れなどでバタバタしていたので、腹が減っている事にも気付いていなかった。二階に上がって、自分が作ったサラダを一口食べてみると、思い出したかのように、急に腹が減ってきた。 「おいしい…………」  野菜が染み入る。だが、ゆっくりもしていられないらしい。
/203ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加