第二話 雨音は死者の声 二

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「佳樹ちゃん、和希君が来たよ。二階に行って貰うね」 「えええ…………兄貴?」  階段を登る音がしていて、賄い料理を持って和希がやってきた。 「…………兄貴が来たという事は……何か、不動産の調査?」 「そう、ゴメンな。でも、家賃、安くしておくからさ」  和希は幅広く仕事をしているが、不動産屋もしている。俺の住んでいるアパートも、和希の持ち物であった。 「それで、どんな内容?」 「あ、今日は塩家君も一緒か。洋平さんの所に見舞いに言ったら、いい子だと言っていたよ。役者の時よりも、活き活きしているね」  和希は、人間に偏見は持たない。しかし、本質を見抜く勘を持っている。 「でも、その前に…………佳樹、可愛い!!!!!俺の弟!!!!兄ちゃんに、チュッチュして!」 「しません!」  和希は料理を置くと、俺に抱きつき、頭や頬にキスしていた。 「佳樹!!!!可愛い!!!!」 「兄貴、話を進めないと帰りますよ」  俺が怒ると、和希は真面目な表情になってから、にっこりと笑った。 「佳樹、俺の竜」  この笑顔が曲者で、老若男女を信じさせてしまうのだ。優しいだけではなく、芯の強さを感じさせる、百パーセントの笑顔なのだ。 「…………ふうう、佳樹と一緒に住みたい。でも、家族にも佳樹を見せたくない。佳樹が竜だというのは、俺だけの秘密」 「口に出して言っていますよ」  俺が竜を出すのが、そんなに困るのか。 「水瀬、俺と竜ではなく、水瀬が竜という意味だろう」  そして、塩家は自分と類似したものを、和希に感じるという。 「騙すところ?」 「人聞きの悪い事を言うな!」  人タラシな所が似ているのだろう。
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