第二十三章 龍の子 三

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 俺は、毎日、泥だらけの野菜と格闘していて、真っ黒になる。 「…………そういう汚れではなくてね」 「んん???心の中を読みましたか?」  言葉が表情に出てしまっていたらしい。 「いいのですよ。こういう汚れ役は、芸の肥やしとして、私と塩家君に任せれば…………」 「え、俺???」  塩家が微妙な表情をしていた。  瀧澤は、あれから汐波の車を運転して移動し、街中のホテルで、もう一度ガッツリ抱いてから別れたらしい。そして、タクシーでここまでやって来た。 「水瀬君を傷付けたので、もう、汐波さんは黒澤さんの助言を貰えない。でも、真面目にやれば教授という役どころは残っている。まあ、汐波さんも分かっていて、パートナーのいる海外に行くと言っていた」  汐波のパートナーは、海外で研究を続けていたらしい。 「汐波さんは、蘭華ちゃんを諦めたわけではないけれど、本当に満里子ちゃんが取り込んだのかと疑い始めていた」  やっと汐波も、全て状況証拠でしかないのだと気付いたらしい。そして、自分が利用されていたのではないかと、疑い始めた。 「満里子は………………」 「黒澤さんは怖い人だ、でも、嘘はつかない。だから、満里子ちゃんは生きている」  満里子が人を本当に取り込んでいるのか、満里子はこれからどうなるのか。不安が残っているが、今はどうする事も出来ない。ただ、黒澤を信じて、満里子の回復を待つしかない。 「満里子が生まれた時、俺はすごく喜んだそうです」  二歳だった俺は、子分が出来たと喜び、両親に怒られた。そして、女の子は大切に守り、優しくしなさいと、きっちり教えられた。それなのに俺は、満里子を守る事が出来なかった。 「そうだね、満里子ちゃんも、水瀬君と出会えて楽しかったと言っていた」  どうしてなのか、涙が流れて止まらない。  すると、瀧澤が近くにあったタオルを取って、俺の顔を拭いていた。しかし、そのタオルは、実は雑巾だ。そういう所は、瀧澤は大雑把で、気にしていない。  しかし、俺を抱き込むと優しく肩を叩いてくれた。  そして、塩家が雑巾とタオルをすり替えた。 「君が泣くと、雨になる」 「そうですね。よく笑えと言われていました」  日常では母に、洗濯が溜まるので、笑えと言われていた気がする。
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