第一章 雨音は死者の声

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 陽洋のディナーは個室で、多くの客は来ない。しかし、一人一人に合わせた料理で、タイミングは客のペースに合わせる。だから、ランチとは違った緊張がある。 「メインは御崎さんがやってくれるから。佳樹は前菜とサラダ、スープ、デザートを頼む」 「承知しました」  前菜とサラダ、特にサラダは陽洋のメインの一つと言われている。俺がそれをやってもいいのかとも思うが、御崎と竜ケ崎は忙しく動きまわっていた。 「佳樹のサラダは、有名だからな」  それは水のせいで、水分の多いサラダは、威力を発揮し易い。俺は客を見てから、どの水で、どのサラダにするのか決めてゆく。  そして、客の様子を確認していると、来店した客に見憶えのある人がいた。 「相良設計建築事務所の相良様?」 「あれ、ディナーに水瀬君がいるのか!!良かった!水がね、大好評でね。少し、土産に持って帰る。それと、相談もあってね……塩家君はいないのか?」  俺が、土産に欲しいという水のリクエストを聞いていると、横にやって来た男性も追加で注文していた。 「あの????」 「ああ、紹介するね」  男性の顔を見ると、どこかで見憶えがあると感じる。しかし、客としての記憶ではない。 「この方は、天野さん」 「もしかして、天野グループの、天野 成一様ですね」  天野はレストランをチェーン展開していて、その方面でも有名だが、他にテレビに出たがりなので、見憶えがあった。 「随分と若いコックさんだね。大丈夫なのかな?」 「メインはベテランが担当しているので、安心してください」  俺は笑顔で返しつつも、顔がひきつりそうになってしまった。俺はともかく、陽洋の悪口は言われたくない。 「水は、水瀬君の担当ですよ。それに、彼は、私のお気に入りでね…………塩家君もいる?」  塩家はいないと言いたかったが、今日はヘルプで店を手伝っている。
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