第一章 雨音は死者の声

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「塩家、相良様がお呼びです」  俺が厨房に戻ろうとすると、相良は正面にある一枚板のテーブルの前に座り、俺の腕を引っ張った。 「天野さんを個室に案内してください。私は、水瀬君と少し話があります」  奥からやってきた塩家が、天野を案内しようとすると、塩家の腕も相良が引き留めた。そこで、まだ帰っていなかった陽子が、天野を案内してくれた。 「相良様?」  相良はマイペースで、塩家の腕をがっちりと掴んで離さない。 「これ、どう思う?」 「これとは、何でしょうか?」  そこで、やっと相良は自分が何も持っていない事に気付き、カウンターにあったメモ用紙に、建物の図面を描き始めた。しかし、メモ用紙が小さかったのか、何枚も並べて描き始めていて、それがズレるので、かなり見難い。そこで、テープで止めながら見ていると、どこかのホールのような施設の図面である事が分かった。  「建物に問題はないように見えますが…………」 「そうだよね」  問題ないと分かるまでに、詳細な図面が出来上がっていた。しかも、使い掛けであったが、メモ用紙がほぼ無くなってしまうほどに大きい。 「ここで、コンサートがあってね…………事故が発生した」  建物に問題がなくても、警備に問題があれば事故は発生する。群衆というのは、何をするのか分からないものだ。 「これは、森の宮公園野外ステージですね?記事で読んでおります」  塩家が俺に記事を送信してくれたので、俺も慌てて読んでみた。すると、野外コンサートの最中に、小雨が降り出し。慌てた人々が駅に向かおうとして怪我人を出したとあった。 「水瀬、前菜があるのでしょう?私が話を聞いておくので、仕事をしてもいい」 「ありがとう」  確かに、前菜なので急がなくてはいけない。俺が厨房に戻ると、塩家が丁寧に話を聞いていた。
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