第一章 雨音は死者の声

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「バーンというインパクトはないよ」  確かに、派手で凄いと思わせるようなトリックはない。 「お口に合いませんでしたか?」 「いや、おいしかったよ。でもね、もっと、記憶に残るイメージが欲しいかな」  そういうのは、洋平が得意としているが、今日は体調を崩していない。  天野の言わんとしている事は、何となく分かる。料理も記憶に残る美味しさというものがある。ただ、美味しいでは、インパクトに欠けるというのだろう。 「サラダお持ち帰りですね。合わせて水も付けますか」 「そうだな。良く眠れる水を頼む」  サラダに、よく眠れる水なのであろうか。 「サラダを、お食べになるのはいつ頃ですか?」 「あ、そうだな。サラダ用の水は、爽快スッキリで、それとは別に眠れる水を用意して欲しい」  そこで、天野ははっと気づいた顔をした。 「そうか!私も、ここに来たら当たり前に水に何かを求めている。ここには、定番の欲しいがあるのか。それ処か、家の風呂のように、ああ早く水を飲みたいと思わせる枯渇感がある」  そこで、天野が残り少ないメモ用紙に、何か書きまくっていたが、気にしない事にした。そして、リラックスできるように、富士山と書いた水を出しておいた。そして、空気も富士山頂にしておく。 「………………昔、山登りに誘われて、気付いた事がある。不足に気付くと、当たり前が、当たり前でなくなくなる…………」  日常に有難みを持ったと言う点で、山登りは良かったと天野は言っていた。 「追加のメモ用紙です」 「ありがとう」  天野は水を飲みながら、商品の企画書を書いていた。そして、並べて唸ると、追加のメモを注文してきた。 「定番は強い。新しい店に人がやって来ても、せいぜい三回のご来店だ。定番は、毎日、来たくなる店」  その点でゆくと、陽洋を毎日の散歩コースにしている客は多い。
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