第一章 雨音は死者の声

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 しかし、それは隣の芝は青いというだけだ。手伝い始めて帰れなくなっていた陽子が、天野の話を聞いて、顔をしかめて首を振っていた。 「…………ここは夫婦で切り盛りしていますが、互いの意見が食い違う事など、しょっちゅうだそうです」  陽子の言葉を代弁し、つい俺が言ってしまった。  陽洋を囲む庭は、洋平がデザインしている。陽子は花を植えたかったようだが、洋平は物語を重視した。  そして中庭も、洋平の好みだ。これは、誰かの絵を参考にしていて、雑草のように生い茂る植物をコンセプトにしている。だから、虫もいる。  陽子は虫が大嫌いで、中庭を刈り取りたいと言っていた。 「妻が現場から離れたのが原因だったのかな…………」  どうも、原因は子育てだけではないような感じもしている。 「女性は永遠の謎ですよ」 「君、独身だよね?」  しかし、女性は謎の生物だ。  俺の母親は、母という感じのする人だった。しかし、女性と思った事は無かった。そこに、ポイントがある感じもする。 「それで、店にご来店され、何か分かりましたか?」 「まあ、ここは、スタッフあっての店だ。まるごと買い取らないと意味はない。しかし、それは不可能」  天野は諦めたとは言わずに、不可能なのだと結論付けたようだ。 「ありがとうございます」  そこで、俺は水を追加で出しておいた。 「それと、この水だ。富士山の湧き水なのかと思ったら、そのパワーは感じるのに、味は違う。普通の水だ」  天野の舌は確かで、味覚で分類するならば、水は全て同じであったという。しかし、感じるものは、全て異なっていたらしい。 「でも、美味しい。染み入る水で、ただの美味しさとも違う」 「ありがとうございます」  ここまで理解して貰えると、俺も嬉しい。
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