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しかし、それは隣の芝は青いというだけだ。手伝い始めて帰れなくなっていた陽子が、天野の話を聞いて、顔をしかめて首を振っていた。
「…………ここは夫婦で切り盛りしていますが、互いの意見が食い違う事など、しょっちゅうだそうです」
陽子の言葉を代弁し、つい俺が言ってしまった。
陽洋を囲む庭は、洋平がデザインしている。陽子は花を植えたかったようだが、洋平は物語を重視した。
そして中庭も、洋平の好みだ。これは、誰かの絵を参考にしていて、雑草のように生い茂る植物をコンセプトにしている。だから、虫もいる。
陽子は虫が大嫌いで、中庭を刈り取りたいと言っていた。
「妻が現場から離れたのが原因だったのかな…………」
どうも、原因は子育てだけではないような感じもしている。
「女性は永遠の謎ですよ」
「君、独身だよね?」
しかし、女性は謎の生物だ。
俺の母親は、母という感じのする人だった。しかし、女性と思った事は無かった。そこに、ポイントがある感じもする。
「それで、店にご来店され、何か分かりましたか?」
「まあ、ここは、スタッフあっての店だ。まるごと買い取らないと意味はない。しかし、それは不可能」
天野は諦めたとは言わずに、不可能なのだと結論付けたようだ。
「ありがとうございます」
そこで、俺は水を追加で出しておいた。
「それと、この水だ。富士山の湧き水なのかと思ったら、そのパワーは感じるのに、味は違う。普通の水だ」
天野の舌は確かで、味覚で分類するならば、水は全て同じであったという。しかし、感じるものは、全て異なっていたらしい。
「でも、美味しい。染み入る水で、ただの美味しさとも違う」
「ありがとうございます」
ここまで理解して貰えると、俺も嬉しい。
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