爆発物郵便?

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爆発物郵便?

 ペンを執れば原稿用紙の上に、何の苦も無く読者を魅了する、素晴らしい物語を流れるよう綴るのが常の私だが、その時に限っては、一行と書かぬ間にペンは止まり、改めて構想を立て直してみるのだが、やはり巧くは行かず、頭の中では完璧と組み立っている筈の物を、原稿用紙へ置き換える事に難儀していたのであった。  執筆を諦めた私は万年筆のペン先を見詰め、布でもってそのペン先を拭い、布が吸い込んだインクのじわじわと広がって行く様を、靄でも掛かってしまったかの様不鮮明な視界で眺めていた。  と、その時に、躊躇いがちに襖の向こうから声を掛けられ応えると、   「先生──宜しいでしょうか?」  書生の晴幸(はるゆき)の声が耳に届いた。  私が入室の許可を返すと襖はスッ──と滑り、晴幸が可愛らしい顔を覗かせた。私と目が合い敬意を表す礼を見せ、 「ご執筆中に申し訳ございません……先ほどお使いから戻って参り、郵便受けを見ますと、この様な封書が届いておりまして──」  晴幸の手元を伺って見れば歪な分厚い封書を、何やら大切そうに差し出した両手に乗せている。   「差出人は? 誰からなのだ?」  私が問うと、晴幸は改めてその封書に目を走らせた。それから怖々と私の顔を伺い見ると、   「……それが──悠聖(ゆうせい)様からなのございます……」  奥歯に物が挟まっったような云い方をした。『悠聖』と名前を聞いた私は、ズイ──と片手を延ばし、晴幸の手から封書を引っ手繰ろうとした。だが、私の手は封書に届かず虚しく空を切った。どうやら晴幸は、封書を私に渡すまいと、両手を自分の胸に引き付けたようだ。   「──何だ──」  私は多少荒々しく𠮟る如くに尋ねると、晴幸は再度封書に目を走らせ、   「……怪しい物に御座いまして……。この封書の中には、何やら重く硬質な物が入っているのです──」  晴幸は眉間を曇らせ私に救済を求めるような、そんな表情を作った。答えない私を知ると困り果てたように、封書を持った両手を差し出しながら私の傍までやって来た。  私が片手を投げ出し封書を寄越すよう促すと、従わずにまた口を開いた。   「──先生……。世間を騒がせている『爆発物郵便』ではないでしょうか? 誰かが悠聖様を(かた)って送りつけたとも考えられます。開けた途端に……ああ──恐ろしい……」  顔を背向け、机上へ封書を置いた。私がそれへ手を触れると、晴幸は悲鳴のような息を漏らした。
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