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桜小路家は華族であっても、資産運用を失敗してから困窮を極め、それは骨董品や土地を売ってもしのげるものでもなく、華やかさを求める戦争財閥や成金と婚姻関係を結び、生涯援助をしてもらうしか道は残されていなかった。
「そうだろうな。華族の娘である以上、富豪に嫁ぐ運命は変えられまい。琴子の姉のように裕福な子爵の所へ嫁げれば話は別だが」
梅吉は腕を組んだまま続ける。
「そこで、おまえに良い縁談を持ってきたんだ」
「……え?」
私はうつむき加減だった顔を上げた。
「俺の母方の遠縁にあたる、中野商店の息子が落ち着いた嫁を貰いたがっている」
「中野商店?」
「今は、中野貴金属店に改名したかな。琴子も名前くらい聞いたことあるだろう?」
知っているのは本当に名前だけだったが、私は小さく頷いた。
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