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そんな良い話を、父が断るわけもなく、中野家との縁談は勧められ、今日の帝国ホテルでの見合いに至る。
——まさか、二度目もここだなんて。
馬車から降り、ネオ・ルネサンス様式の木骨煉瓦造3階建のホテルを見上げた。
外に出たのも久し振りで、色んなものが眩しくて、思わず目を閉じた。
いつもに増して着飾った両親と共に待ち合わせの談話室へと向かう。
「いいか、琴子、お前は一郎君と二人きりになっても、過去の結婚生活を赤裸々に話すんじゃないぞ」
父が、睨むように私を振り返り、釘を刺した。
前夫から受けていた暴力。
心も身体も壊してしまった暗い日々。
それは全て汚点であり、口外すれば桜小路家の名に傷がつく。
「わかっています」
私は口を堅く引き結んで、中野家の面々と顔を合せた。
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