私の不幸せな結婚

19/19

1055人が本棚に入れています
本棚に追加
/399ページ
「えぇっ?!」  思わず声を上げると、一郎さんは歪んだ笑みから、目を垂れさせた普通の笑顔になって言った。 「大きな声出るじゃない。ずっと俯いてボソボソ喋ってたから、根暗なのかと思っていたよ」 「ね、根暗だなんて……」  梅吉から、昔は明るかった、なんて言われるくらいだから、そうなっていたのかもしれないけれど……。 「だから、僕が貴女を抱く事は一生ない。それでも良いならこの話は進めさせてもらうよ」  また、風が吹いた。  さっきより穏やかな秋風が、私の着物の袖と、一郎さんの長めの前髪を揺らす。  ……そうだ。  世の中にはきっといろんな夫婦がいるはずだ。  一生、肌を合さなくても、愛がなくても、穏やかに暮せればそれだけで私は不幸ではない。  きっと、この人は、私を傷つけない——  私は小さく頷いて、ハッキリと答えた。 「はい、よろしくお願いいたします」
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1055人が本棚に入れています
本棚に追加