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『前の結婚と同じようにしていたら?』
……と言われても、私は何もさせて貰えていなかった。
華族ではなかったけれど、前夫の家には女中頭の他に何人も使用人がいて、家事は全くする必要がなかったし、まだ十六歳だった私は “女主人” になれるほど腹も据わっておらず、何より、あの人が怖くて、ただ逃げ回っていただけだった。
「おはようございます、奥様」
一郎さんより早く起床し本館に行くと、使用人達が既に忙しく働いていた。
「何かお手伝いすることありませんか?」
台所に行って声をかけると、女中達が途端に顔を見合わせた。
「いいえ、大丈夫です。奥さまは朝食までごゆっくりなさってください」
「何かお気に召さない事がありましたら後でまとめて仰ってくだされば」
案の定、台所から丁寧に追い出され、仕方なく、私は土間を抜けて中庭の方へ向かった。
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