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「兄上、あの川にいる花美な鳥は何?」
里親家族の兄と遊んでいる時、田園そばの水場で泳ぐ鳥を見つけて名前を尋ねたことがあった。
くちばしは桃色で、茶色や白、黒、青味がかった紫の羽を持つ鳥は、私の声に反応して木の上へ逃げて行った。
「あれはオシドリだ」
五歳上の梅吉は、小さい目を更に細めて教えてくれた。
「おしどり夫婦のおしどり?」
「そうそう。琴子はまだ幼児のくせに、そんな言葉知ってるのか?」
「わたし、もう六歳よ。幼児じゃない」
プイっと顔を背けてわかりやすく拗ねた私の頭を、梅吉が撫でて言った。
「そんなむくれるなよ。でも、オシドリってそんなに仲睦まじい鳥じゃないんだぞ」
「仲良く、ないの?」
「そう、メスが卵産むまではオスそばで見守っているけど、産んだらおしまい。さっさと去って別のメスとまた交尾をはじめるんだ」
「こうび……」
私が軽く首を傾げると、「琴子のとうちゃんみたいなもんだ」と笑った。
「お父上? わたしの父上はそんな人じゃないよ」
「……」
梅吉は“しまった” って顔をして、話をはぐらかすかのように飼っていたチャボを捕まえて遊び始めた。
この時、まだ、私は知らされていなかったのだ。
自分が、妾の子で、生まれてすぐに正妻の元に引き取られた事を——。
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