運命の日 3

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「直ぐにでも皮膚の移植手術をしたら最悪の事態を免れたのでしょうが……」    今は意識もなく、生死をさまよっている、と近くにいた医師が淡々と話す隣で、看護師の若い女性が涙声で呟いた。 「さぞかし美しい男性でしたでしょうに……」  そう言いながら、意識のない一郎さんの顔のガーゼ部分をゆっくりと剥がした。 「意識がある時にこれをすると、皮膚と張り付いているので地獄のような苦しみを味わう。早く殺してくれと叫ぶ患者さんもいる」  想像しただけで、こちらの皮膚がピリピリとしてくる。火傷は、助かってもずっと苦痛を伴うのだ。   「しかし、もうご子息には、もうその叫ぶ力も残されていない。今夜が峠です」  医師が、私と義父に頭を下げて他の患者の所へ行ってしまった。  「……峠……」  項垂れる義父の背後で、私はただ震えていた。  運命の残酷さに悔しさのあまり、全身が震えて止まらない。  ……どうして。  どうして、一郎さんばかりがこんな目に遭うの?  ――一体。  どこで道を誤ってしまったの?
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