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私が、お見合いで一郎さんにお会いしたとき、あのやわらかな笑顔に心を奪わなければ、私達は夫婦になることもなかった。
私が、一郎さんに恋などしなければ、このように運命は狂うことはなかったのだ。
全て、私が不幸の元凶……。
「……琴子さん、泣くのはまだ早い。一郎はまだ生きてるんだからね」
義父に言われ、いつの間にか頬に溢れていた涙を手の甲で拭った。
「……すみません。お義父様……」
ずっと蓋をしていたのに。後ろ向きで根暗な感情が、私を支配してしまっていた。
「俺の分も話しかけてやってくれ。医師が言うように意識はなくても声は聴こえてるかもしれない」
「……はい」
私が一郎さんのお側に寄り、彼の名前を呼ぶと、義父は、「麦湯(麦茶)でも貰って飲んでくる」とテントから出て行った。
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