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一郎さん……。
一郎さんは、私の手紙の返事を読まれたであろうか?
私は、一郎さんからの恋文が嬉しくて、しかし、その熱量に見合ったお返事は書けなかった。
私は、一郎さんほど文才はないのだ。
一郎さんの手を握りながら、お守りのように持ち歩いていたお手紙を取り出して、再度読んでみる。
【離れてみて、痛いほど感じている。
君が恋しい。
琴子を手離したく無い。
その地で、どんなに男前なアメリカ人やヨーロッパ人と出会っても、(日本人でも添田でも)君は決して、唇はおろか、肩も触れさせてはいけない。
僕以外の男を思ってはダメだよ。
琴子の魂も身体も、もう中野一郎という男のものなのだから。】
「一郎さん……ご心配なさらずとも、私は、ずっと貴方だけのものです」
【琴子が嫁いで来てくれて、僕は幸せ者です。
結婚をして、初めて人を好きになりました。
手紙も待ち遠しいけれど、やはり早く君に会いたい。
どうか無事に帰国してきてくたさい。
中野一郎 】
周りに人がいようが看護師に聞かれていようが構わなかった。
「私も、一郎さんと結婚して、初めて誰かを愛しく想う気持ちを知りました……」
たとえ、貴方が大怪我で意識が戻らずとも、身体が自由に動かずとも、私は、貴方の妻であり、なんなら母にもなったつもりで、その大切な御身体を守って支えて行きます。
「私を、゛中野琴子 ゛にしてくださってありがとうございます……」
私は、その傷だらけの手の甲にそっと、自身の唇を当てた。
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