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そして、ふと、気がついた。
一郎さんの左手の甲にある火傷が、古いものであることに――
……震災で負った火傷ではない……?
「この火傷は……」
――まさか。
気が付いたと同時に、「あっ……」と、声を上げた。
立ち上がってよろめいた私の背中を、誰かが支えた。
この手は、義父や添田さんのものではない。
「……琴子……」
優しい包み込むような声に、そっと振り向いた。
悲しみではなく、今度は安堵の涙が洪水のように溢れてくる。
彫刻のような陰影と、切れ長の大きな瞳。きめ細やかな肌に、頬の傷あと。
薄い唇が、「琴子」と、もう一度名前を呼ぶ。
そこには、一番、大切な、私の夫がいた。
「一郎さ……ん…」
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