1167人が本棚に入れています
本棚に追加
「……そ、そうだったんですか……」
「こんな足だから……逃げ遅れた僕を庇うように落ちてくる柱から守ってくれたんだ」
「……」
言葉が出ないまま、宗一さんの顔を見つめる。
包帯やガーゼでわからなかったが、ちゃんと見れば、一郎さんとは別人だ。完全に動転してしまっていた。
「宗一さんは、どうしても、一郎さんにお会いしたかったんですね」
私が夫を想うように、宗一さんも兄を想って……―
コクっと小さく頷いて、一郎さんは腕で目元を隠す。
溢れてくる涙を見せまいと、私に背を向けた。
「そして、僕のかわりに、こんな酷い目に遭ってしまった……」
一郎さんは、さきほど私がそうしていたように、宗一さんの手を握りしめた。
そして、一晩中そばで見守っていた。
゛生きてさえいてくれたら、それでいい゛
何度もそう話しかけながら。
しかし、宗一さんは、その翌日に静かに息を引き取った。
最初のコメントを投稿しよう!