運命の日 3

26/32
前へ
/399ページ
次へ
 九月一日。  地震を起因とする関東大震災は、十万人の命と、二百万人の家を奪った。  人的被害の九割は、火災によるもので、東京では三日朝まで燃え続けた。  特に酷かったのは、本所の被服廠跡(ひふくしょうあと)(陸軍の軍服を作っていた建物の跡地※現在の横網町公園)に避難した三万五千人の焼死だった。遺体はその場で荼毘(たび)に付されたという。  宗一さんの骨は、義父の許可を得て四十九日を過ぎてから、中野家の墓に納められることになった。  それまでは、ほんとうに慌ただしい日々だった。  何もかも失ったけれど、残された従業員を餓死させるわけにはいかず、救護作業が一段落した九月中頃から、中野貴金属店は再生に向けて動き出す。
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1167人が本棚に入れています
本棚に追加