運命の日 3

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 そして。  迎えた宗一さんの四十九日法要。 「あの時、こんな風に人は死ぬんだと思った」  納骨が終わって、帰路の途中でフッ……と一郎さんが呟いた。  それまで、震災からの復興など慌しくしていたのもあり、宗一さんの事を感傷的に話されるのは初めてのことだ。 「宗一さんも無念でしょうね……」  中野家に居た時は、嵌められたりして嫌いだと思う時もあったが、今となっては、その行為も憎めない。 「紡績工場で働いてお金を貯めたら、浅草で商売をしたいのだと、以前手紙に書いてあった」 「宗一さんなら繁盛させられたでしょうね」  人目を引く容姿に、甘い声。  そして物怖じしない強かさ。  中野の装飾店でも私を不要だと落ち込ませるほど優れた接客をしていた。 「あぁ。でも、亡くなってしまっては、もうどうしようもない。それにしても、ほんとうに多くの人が亡くなってしまった」  苦く言って、一郎さんは曇った空を見上げた。  震災の日の記憶を生々しく、あの灰色の空が呼び起こす。 「それでも、……君が宗一を僕だと思い込んで話していた言葉が、あの時は嬉しかったんだよ」
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