運命の日 3

30/32
前へ
/399ページ
次へ
「法要帰りにキャッキャと仲慎ましくあられるのは結構なんですが、これから我が社は大変ですよ」  いつの間にか近くにいた添田さんが、新調したメガネを指で引き上げて言った。 「そんなことはわかってる。震災後なら、どこの会社も同じだろう」 「こんな日に、こういう事は言いたくありませんが。ルグランの訴訟で、証人として立って貰う予定だった宗一さんが亡くなった今、勝算の見込がぐんと減ったのです」  不謹慎とも取れる添田さんの言葉は、現実的に大きく中野にのしかかる。しかし、 「ルグランの犯行の裏付けには、博覧会での琴子の新聞記事がきっかけとなって、日本の警察が動いている」  一郎さんは、灰色の空とは真逆の、晴れ晴れとした顔をしてこう返した。 「中野貴金属店は、パリ訴訟にも勝って、世界に羽ばたいてみせる」  
/399ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1167人が本棚に入れています
本棚に追加