幸せだった私の結婚

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 それに対し、母さんは強かった。  年上女房というのもあったのだろうが、次第に弱っていく父の看護を、最期まで他人に任せず、己でやり遂げ、中野貴金属の仕事も副社長として、パリっとこなしていたのだから。  息子の自分から見れば、気丈を通り越して、どこか冷めているのかと思ってしまったほどだ。  だから余計に、今の母さんの脱力具合が信じられなかった。  納棺された父のそばで、ただその動かぬ顔を見つめている。  泣き叫ぶわけでもなく、己が屍になったかのようにじっとしている。  配偶者が亡くなっただけで、こんなになってしまうのか、と。    結婚はしたが、うまく行かず独り身になった俺からすれば、よくわからない感情だった。
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