1168人が本棚に入れています
本棚に追加
それに対し、母さんは強かった。
年上女房というのもあったのだろうが、次第に弱っていく父の看護を、最期まで他人に任せず、己でやり遂げ、中野貴金属の仕事も副社長として、パリっとこなしていたのだから。
息子の自分から見れば、気丈を通り越して、どこか冷めているのかと思ってしまったほどだ。
だから余計に、今の母さんの脱力具合が信じられなかった。
納棺された父のそばで、ただその動かぬ顔を見つめている。
泣き叫ぶわけでもなく、己が屍になったかのようにじっとしている。
配偶者が亡くなっただけで、こんなになってしまうのか、と。
結婚はしたが、うまく行かず独り身になった俺からすれば、よくわからない感情だった。
最初のコメントを投稿しよう!