砂糖漬け【16】日目

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もし小澄先生と深い関係になっていなかったら、私は彼のことを少し誤解して生きていたのかもしれない。 勝手な考えだけど小澄先生って人は、勉強もスポーツも万能で、それこそ学校一のイケメン、モテ男ってイメージだったのに。 「じゃあ小澄先生は学校で1番人気があったということで相違ないですか?」 「……いや?俺はいつでも1番だと思ってるよ?でも子供の頃って足の速いヤツのがモテるじゃん。俺、運動音痴なんだよなあ……まあ3番目くらい?」 「ああ、今もたまに何もない所で躓きますもんね」 「それはね、ただの老化現象」 あははと笑う彼は、懐かしそうに私の手元の写真を見つめている。 普段はお医者さんとして、堅苦しい世の中で気を張って生きてる人だから、仲良くないと近寄りがたいなって思うこともあるのに。 「(……親しみがすごい)」 決して完璧なんかじゃないギャップ。 でも、それが小澄先生なんだって思えた。 あまりにもしょうもない理由で医師を目指して、それを本当に叶えてしまう所も、運動不足で階段のぼると息が上がる所も。 患者のちびっ子とクリニック前の通路でかけっこしてるのを目撃したことあるけど、優しさで負けてたわけじゃなくて、わりと本気(マジ)で足が遅かった所も。 「……好きだなあ」 「は?なにが?」 「すいません、うっかり口を滑らせた所です。小澄先生はお気になさらず」 うわあ気抜いた……何言ってんの私。 思わず両手で自分の口を覆ってしまう。 だけどそんなこと知ったこっちゃない彼は「もう少し休んだら初詣いこ〜」って、ソファに座る私に抱きついてくる。 その小澄先生の髪から、いつも彼が使っているシャンプーの香りがして 「ああ、帰ってきたな」と、なぜだかホッとした。 また明日からいつも通りの日常が始まって、きっと慌ただしくなるんだろうけど。小澄先生が一緒にいてくれるから、多分なんとかなる気がするんだ。 擦り寄ってくる小澄先生にもみくちゃにされながら、ハッとあることを思い出した私は慌ててソファから立ち上がり 「そうだ!お土産あるんですよ」 「……お土産?」 そう言った私は急いで自分の部屋へ戻ると、置いてあったキャリーケースをひっくり返し、実家から持ってきたお菓子を掴んで再びリビングへと戻る。 不思議そうに首を傾げる彼に、持っていた小さな箱に入った和菓子を差し出しながら 「これ、うちの父からです」 「お、お義父さん⁉︎」 「はい。これ、うちの地元では結構有名な和菓子で良かったら食べてくれと」  
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