砂糖漬け【16】日目

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そう言った私の指差した先には、カップ麺(醤油味)の横に広げられていた数枚の写真。 汁が飛んだらどうするんだという状況下に、小澄先生は「ああ」と、何か思い出したかのような表情を浮かべ 「実家帰ったら、母さんに持ってけって言われて。みゆに見せてやれだと」 「これ!小澄先生の!学生時代のお写真でしょうか⁉︎」 「そうだけど……なに、そんな鼻息荒くして……こえーよ」 「(た、宝物ゲット……っ!)」 実は昔、職場の長である佐藤先生から何かの拍子にこんな話を聞いていたのだ。 「学生時代の小澄先生が可愛すぎる」と。 正直、それがどうしたという話じゃないか。じゃあ見せてくれってお願いしたことあるけど、今はないと言われていたのだ(そりゃそうだ) だからといってそこまで興味はなかったので、私もそれ以上は深入りすることもなく、のらりくらりとやってきたわけだけど…… 「まさかこんなところでお目にかかれるとは」 「そうだな、俺もびっくりだぞ。いつも濁ってるみゆの瞳が輝いてて」 「職場で噂は聞いていましたが……あの小澄先生にもこんなに可愛い時代があったんですね。え、これは小学……いや、中学生ですか?」 「……高校生だけど」 「……こっ、子供ですね⁉︎」 「子供だからな」 話を聞くと、どうやら彼はその昔、背が小さかったそうな(ただし態度はデカい) 中学生で一気に身長は伸びたものの、コンプレックスの童顔だけはどうすることもできず……思春期真っ盛りの聡斗くんが、悩み抜いた末に辿り着いた次の手は…… 「剣道部だったら顔隠せるだろ?これだったらカッコいいしモテるかなって。あと日焼けしたくなかった」 「浅はかな動機」 「ただ残念ながら思ったよりモテ過ぎた。だから逆に彼女ができないどころか、部員からの妬みで当たりが強くてさ……追い込み練習はマジでトラウマ」 「……たしかに心なしか、部活中の小澄先生は虚ろな瞳してますね。青春真っ只中のはずなのに目が死んでる」 「つうか何より臭えんだよ。ファブったりしてみろ?死ぬぞ」 私は帰宅部だったので、剣道部の気持ちは全くと言っていいほど分からない。そして多分この先も分からない。 そもそも、彼が剣道部だったことは佐藤先生からそれとなく聞いたことあったけど、特に触れることはなかったのだ……まあ、姿勢は良いなあとは思ってたよ(にわか) 一緒に住んでるくせに、ほんと私は彼に興味がないというか……今年はもう少し、小澄先生に興味を持とう。そうしよう。 私は数枚の写真を両手で持って眺めながら、ソファに腰掛けると 「今は剣道やってないんですね」 「そんなもんやるわけねえだろ!別に大して強くねえし……なあ、俺がなんでもできると思ったら大間違いだぞ。どっちかっつうと運動は苦手なんだよ」 「……っ!そ、そういえば小澄先生が運動してるところ見たことない!」 「だから部活引退してからは悔しくて勉強に打ち込んだわ……医者になればモテるかなって考えて、それで医学部目指したのが懐かしいぜ」 「……遠い目しないでもらえますか。そこは一人でも多くの患者さんを救いたいからとかじゃないんですね」 「はあ?高校生の俺がそんなこと考えると思う?まあそのおかげでみゆに出会えたからな〜!俺ってほんと幸せ者〜」 「ははっ、小澄先生のその病的なまでの私に対するポジティブ思考、嫌いじゃないです」  
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