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余談だけど、私の生まれ育った地元はわりと有名な観光地で、テレビでもよく特集されているような所。
そんな所で買ったお菓子を父から託されていたことをすっかり忘れていた私に、小澄先生は驚いたように目をパチクリさせ……それから、恥ずかしそうに両手で顔を覆った(なぜ)
「あの、小澄先生……早く受け取って頂けると助かるのですが」
「……」
「……小澄先生?」
「お義父さん、俺のこと何か言ってた?」
何かって何?
その言葉に、私は「うーん」と斜め上を見つめながら
「大したことは何も……あ、もし学会とかで会う機会あったら声かけてネ……だそうです」
「もちろんです!って伝えておいて。あとお土産のお礼も」
「かしこまりました。あとで連絡しておきます」
そしてようやくお土産を受け取ってくれた小澄先生は、何の変哲もないその小さな箱を、ただただ大事そうに見つめていた。
私にとってはお菓子の入った箱だけど、彼にとってはきっと特別なものなんだろうなあって……そう思えたことが、少しだけ嬉しかったりする。
口元を緩ませたままの小澄先生に、私は小さく笑いかけると
「それ、ちゃんと食べてくださいね?残してたら賞味期限切れちゃいますから」
「食べるよ大丈夫。あとで一緒に食お?」
「じゃあ初詣行って、帰ってきたらお茶にしましょうか」
久しぶりの、小澄先生と二人で過ごす時間。
「とりあえず出かけるか〜」と、元気良くピョンと立ち上がる彼につられて、私もゆっくり腰を上げる。
と同時に、会ったら一番先に言わなきゃいけなかったのに、すっかり言い忘れていた言葉を思い出し、慌てて小澄先生の腕を掴むと
「小澄先生、遅くなりましたが今年もよろしくお願いします」
「おう、こちらこそ末永くよろしく。ところでみゆは初詣、何お願いするの?」
「……内緒に決まってるじゃないですか」
「別にいいだろ減るもんじゃないし。ちなみに俺は、みゆとこれから先も……っ」
などと言いかけた、正直すぎる小澄先生。
私は慌てて彼の服の襟首を引っ張り、こちらに引き寄せるとそのまま無言で唇を重ねた。
びっくりしたのか身動ぐ彼に、私はとびきりの笑顔で
「願い事を他人に言ったら叶わない説があるんですよ」
「……ソウナノ」
「だから絶対言わないで、ね?」
叶わなくなっちゃうのは嫌だから。
私の言葉に小澄先生は顔を真っ赤にさせて素直に頷いてくれたから、こちらも安心して初詣に行ける。
「さあお出かけの準備しましょ〜」って、言ってる私の顔も熱い気がするけど……まあ、気のせいかな。
「(小澄先生の1番好きが、ずーっと私でありますように。あと今年こそ名前で呼べますように……えーそれと、愛想と胸が欲しいです……あと女子力、可愛らしさ、基本給も上がらないかなあ)」
「……なげーなコイツ」
小澄先生、今年も末永くよろしくお願いします!
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