epiloge ReStart

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4月9日(月曜日) 晴れ  ◆◆◆  玄関を出たら、制服姿の夏凪が待っていた。  「おはよ」と笑いかけられて、「おう」と頷き返しながら、しぱしぱと目を瞬かせる。 「どしたの? 目、なんか入った?」 「いや……。……なんかさぁ、……変な夢みたわ」 「夢ぇ? どんな?」  キョトンと首を傾げる夏凪の髪は肩にかかるくらいの長さだ。さっきまで、背の中程まで長さがあった気がする。 「……大人の夏凪に会った」 「……なにそれ?」 「知らん」 「知らんて。……で? 大人のあたしって、どんな感じだったの?」  伺う目は、何かを期待するようにイタズラに輝いている。 (くそ、可愛い顔しやがって……)  スンと目を逸らしながら、不貞腐れたように呟く。 「……まぁまぁじゃね?」 「なぁによ、もう!」  プリプリと怒る顔を見つめながら、ふと胸に蘇る痛みから目を逸らすべきか逸らさざるべきか迷う。  オレの顔を見るなり驚愕に目を見開いて。オレが名前を呼ぶなり号泣した、あの痛み。 「……。……」 「なに、どしたの」 「いや……」  とはいえ、さすがに躊躇う。  18歳で死ぬ。──本当だろうか。  早生まれのオレは、始業式当日の今、既に18歳だ。いつ死んだのかまでは、覚えていない。というか、本当に死ぬのかなんて分からない。やけにリアリティのある夢だったような気はするけれど、しょせん夢は夢だ。  とはいえ、夢だからだろうか、やけに都合のいい話も聞いた気がする。 『……我慢なんて、しなくて良かったんじゃない? ……あたしは……春翔となら、別に……いつだって良かったよ』  いつだって良かったなら、──今日だっていいんだろう。 「……夏凪」 「なに~?」 「……今日、お前ン家、行っていい?」 「? 別にいいけど、どうしたの?」 「今日、その……」 「なに」 「最後まで、シていいか?」 「なっ!?」  珍しく目を白黒させて、耳まで真っ赤にしている夏凪の顔を覗き込んで、駄目押ししてみる。なんだかんだで夏凪がオレのおねだりに弱いことは分かっているのだ。 「……ダメか?」 「……別に……いい、けど」  もにょもにょと呟いた夏凪が、「なんかもっと、……旅行とかで初体験が良かったなぁ」とブツブツ言う音が風に乗って届く。  思い出したのは、浴衣姿で湿った髪をゆるりと巻き上げた年上の夏凪の姿だ。  あれは本当にヤバかった。  すぐに押し倒したくなるくらいにエロ可愛くて、誰にも見つからないようにどこかへ隠してしまいたかったのに、全世界に見せびらかしたいくらいの愛しさで胸がいっぱいになって、何も言えなくなってしまった。  不審に思ったらしい夏凪が小首を傾げた時には、人の気も知らないで何かわいこぶってんだ、と悪態つきたくて仕方なかった。  ちらり、と隣を伺う。まだ何やらプチプチと頬を膨らませている夏凪も、なんだかんだ可愛い。──大人の夏凪に、負けていない。 「──今度、温泉とか行こうぜ。オレが連れてってやんよ」 「えぇ~? ホントに~?」 「ホントだっつの!」 「いいよ、約束ね」 「おう」  小指を目の前に突き出されて、ニッカリ笑って小指を絡めた。
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