プロローグ

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プロローグ

 太陽は山の向こうへ沈み、辺り一体が薄暗くなってきた。  昼間は薄着で丁度良かった気温も、厚手の上着が欲しくなるほどに冷え込んできている。  冬になればスキーやスノーボードをする人達で賑わうゲレンデも、今はただの草むらで人影は無い。茂みの中から聞える虫の鳴き声が重なって秋の協奏曲を奏でている。  そんな郷愁が漂う中、ゲレンデに隣接した大きなバンケットルームの中は、数千名の人で賑わい、場内はむっとするような熱気に包まれていた。  白いタイトなパーティードレスに身を包んだ井口綾香(いぐちあやか)は、苦々しげな表情を浮かべて会場内を見渡す。 「元(はじめ)くん、何なのこの人達」 「何が?」 「私はパーティーの司会をお願いされたからドレスアップしてきたのよ。それなのに、何でここに居る人達は、こんなにラフな格好なのよ!」  立食形式のパーティー会場に詰めかけた人々は、Tシャツ、トレーニングウェア、せいぜいカジュアルシャツにジーンズと言ったラフな服装で、パーティーという名に相応しい正装をしている者など誰一人として居ない。 「ごめん、ごめん、ちょっと言葉が足りなかったかな…… パーティーと言っても綾香が想像しているようなものじゃないんだ。明日のレースへ向けての懇親会のようなものだから、格好は自由なんだよ」  狩野元(かのうはじめ)は、ニヤニヤしながらそう言うと、忙しそうにその場を離れ、大会スタッフと何やら言葉を交わし始めてしまう。  取り残された井口綾香は、自分の胸元からつま先までを見下ろして、深い溜息をついた。
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