参 公爵家の人々

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「嫌なの?」  率直に訊ねてみた。 「当たり前だろ! よく知りもしない女と婚約したい男なんているわけないだろ!」  そう噛み付いてくる長男に、私はコクリと頷き同意する。 「その通りだわ。ましてや、私からすれば名前も知らない人たちとこんな部屋に閉じ込められて、どう接すればいいのかわからない」  本当は『ワタプリ』の知識ですでに知っているが…私がそう言うと、長男は「あっ」と名乗ってもいなかった事を思い出し、慌てた様子でマイペースに玩具で遊んでいた三男を連れ戻し、三兄弟並んで私の前に立った。 「俺はエイデン、長男だ」 「ザカライア、だよ…」 「リュカだよ」  三人が名乗ってくれたので、私も名乗ることにした。 「レイラよ」 「……」  そして、遊び部屋が静寂に包まれる。お互いほぼ初対面のようなもので、特に共通の話題もないのだから仕方のないことなのだろうけれど。   ✳︎  遊び部屋には玩具に始まり本がそれぞれ豊富に用意されていて、幸い時間潰しには最適な環境であった。三兄弟からは私と仲良くなろうという意気込みなど特に感じなかったので、私は早々に本の物色をしに本棚の前に立っていた。…何故か三兄弟も着いてきたけれど、邪魔するわけでもないから気にしなかった。  何冊か気になる本を選び、窓際に設置されていたローテーブルに本を起き、そしてソファに腰掛けた。すると、私の両隣にエイデンとリュカが座り、あぶれたザカライアは目の前でひとり、焦った様子でおろおろと右往左往している。ザカライアのことはそのまま放っておいた。  何故隣に? と思ったが、気を取り直して本を開く。すると両隣の少年たちがグッと体を近付けてきて、私と一緒に本の頁を覗き込んできた。 「………ねぇ」  本から顔を上げて、いまだ目の前を右往左往しているザカライアを視界に捉えながら私は両隣の二人に声をかける。 「なぜ近付いてくるの?」 「近付かないと、本が読めないだろ」 「…なぜ一緒に本を読もうとするの?」 「だって僕たち、仲良く遊ばなくちゃなんでしょう?」 「——なるほど」  エイデンとリュカの返答を聞き、私は考えた。正直言って、一緒に遊ぶことは構わない。けれど私は、一つの本を皆で一緒に読むのだけは嫌なタイプなのだ。自分のペースで頁を捲りたい、せっかくの本に没頭出来ず、周りに気を配るなど、それは地獄だと思う。  では読書を中止し四人で遊べばいいのかもしれないが、私の頭はこの手に持つ未読の本への読書意欲が高まっており、読書をしない選択など出来そうにない。  私は首を振って両隣の整った顔を見た。…とても煩わしい。  三人——ザカライアは何がしたいか分からない——が父親の言いつけを守り私と遊ぼうとしているのは、婚約者候補としての義務を果たそうと考えているからなのかもしれない。  今日から一週間、公爵邸に宿泊する予定だが、残りの六日間もこの調子だとすると、きっと私は最後まで彼らに付き合いきれない。  父も、私には婚約者はまだ早いなどと駄々を捏ねてはいたが、結局は公爵の提案を受け入れたと言うことは、シュテルンベルク侯爵家にヴァンヘルシュタイン公爵家の血が入ることを良しとしているということなのだろう。侯爵家の跡取りである私と婚姻を結ぶということは、侯爵家に婿入りしてもらうということなのだから。  前世の立場と経験からも政略結婚というものに抵抗は無かった。家門が守られるならば、婚約者は誰でもいい。——最低限の条件さえ満たしていれば、と付け加えておこう。  で、あるならば、今後一週間を穏やかに過ごすためにも婚約者をサッサと決めてしまうのも手なのかもしれない。父たちは色んな可能性を加味して、一週間という考慮期間を設けたのかもしれないが。
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