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私はパタンと本を閉じて、まずはエイデンの方へ体を向けると、彼の青紫色の瞳を見つめた。
「……な、なんだよ…」
見つめられたからかエイデンの頬がほんのりと赤くなる。戸惑いながらもなんとか強気な姿勢を見せようとする、少年心を可愛らしく思ってしまった。
「私のこと好き?」
「は、…はぁ!?」
エイデンは私の質問の意味を理解すると、さらに顔を赤くさせた。慌てたように定まらない視線をひと通り泳がせたあと、エイデンは私から思いっきりに顔を逸らして強気に言う。
「お前なんて好きになるかよっ!」
「あ、そう」
私は短く返し、エイデンから今度はリュカに体を向けると、「……え、それだけ? ほら、なんか、もう少し…」とエイデンの不安そうな声が聞こえてきたが無視した。
改めてリュカを見る。女の子のように可愛らしい彼を見つめながら、リュカにもエイデンと同じ質問をした。
「私のこと好き?」
「うん、レイラは可愛いから僕好きだよ。メイドのシェロンとアンバー、それとマーサの次くらいに。だからレイラは第四夫人かな、僕モテるから」
「却下ね」
私はすぐに判定を下す。まだ子どもだからと浮気心を許す私ではない。気の多い男など論外である。
私は正面を向くよう座り直すと、最後にザカライアへと目を向けた。
前髪で隠れて分からないが、私と目が合ったのかザカライアは右往左往していた足をピタリと止めてこちらに顔を向けている。やはり彼はもじもじしていた。
「私のこと好き?」
「う、うん…!」
ザカライアが照れたように答える。
「私たち、会ったばかりなのに?」
「…去年のお茶会で、僕は君のことを、す、素敵な女性だと思っていたんだっ」
いっぱいいっぱいになりながらも頬を赤く染める彼の返答を聞き、私は頷いた。
「そう………私、ザカライアと婚約するわ」
「なっ!?」
「え!」
「ほ、ほんとに!?」
三人の驚く声が遊び部屋に響く。
「なんでザックなんだ!?」
納得いかないといった表情でエイデンが詰め寄ってきたので、私は面倒に思う気持ちをなんとか心内に留めて、質問に答えた。
「いくら政略結婚でも、私は私を好きだと言ってくれる人と結婚したいから。理由は以上。では各自、自由時間を楽しみましょう」
私の返答を聞いたエイデンとリュカは目を丸くして、ザカライアは心なしか少し明るくなったように感じた。
✳︎
まさか顔を合わせて一時間もせずに婚約者を選ぶとは思っていなかったらしい大人たちは、私が「ザカライアと婚約します」と告げると驚いた表情で固まっていた。
「……レイラ、なぜ彼を選んだんだい?」
父がおそるおそる訊ねてくる。
「ザカライアは私のことを素敵な女性だと認識しており好きみたいです」
父は大きく頷きながら納得した。
公爵にとっては、話がとんとん拍子に進み嬉しいらしく、満足そうに笑顔を浮かべながら、家族交えて顔合わせを行おうと提案してきた。当人たちが顔合わせをした後、婚約承諾書に互いの当主のサインを書き込めば、晴れて私とザカライアの婚約は成立することとなる。善は急げ、という公爵の考えが明け透けであった。
ちょうど時計の針が四時を差していたので、両家族で庭園でのアフタヌーン・ティーを楽しみながら顔合わせすることとなった。
「レイラは男を見る目がないんだな」
目の前に運ばれてきたスコーンに生クリームをたっぷり塗りたくっていると、斜め前に座るエイデンがフンと鼻を鳴らしながら言ってきた。
「エディ」
公爵の呆れの混じった咎める声色がエイデンを呼ぶ。エイデンは不満気な顔でそっぽを向いた。
「あらあら、この子ったら…弟にレイラちゃんを取られて拗ねているのね」
「全然違うから!」
公爵夫人の揶揄いにエイデンは真っ赤な顔で噛みつく。そんな様子を私がジッと見つめていると、私の視線に気付いたエイデンは目を逸らす。
「……だってそうだろ、ザックは俺たち兄弟の中で一番の…出来損ないだ」
この言葉に公爵夫妻の表情が曇る。悲しみと怒りを滲ませた表情で、彼らはエイデンに口を閉じろと言いたげな厳しい目を向けた。両親の視線に気付かないエイデンは、さらに続ける。
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