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「先生、よろしいですか?」
私はスッと手を上げリュカを見た。
「あ、うんっ、どうしたの?」
私に『先生』と呼ばれ喜んでいるのか、頬を染めたリュカが笑顔で答えた。
「私は、女子クラス委員長にグレイシア姫様を推薦致します」
私の言葉を聞き、クラスの全員が一つのところへ目を向ける。
「………へっ?」
注目され、真っ赤な顔で驚く妖精姫…グレイシアは、何とも王族らしからぬ気の抜けた声をもらした。
注目される中、グレイシアはアワアワと挙動不審な動きを見せる。
「…グレイシアさん。推薦されたけど、引き受ける?」
クラスを代表してリュカがにっこり微笑んで尋ねると、グレイシアは子ウサギのようにプルプルと震えて涙目になっていた。
「わ、私、なんかが、そんな、大役をっ…」
何だかザカライアの昔の姿が重なって、私は勝手にグレイシアへ親近感を抱いていた。
『ワタプリ』にもグレイシアは登場していた。レオンハーツ王子の腹違いの妹姫であるのだが、その大人しすぎる性格からなのか、あまり目立つこともなくゲームでも僅かな登場回数だった。なので、彼女の性格は知らないが、第一印象では悪く思うこともなかった。…自信の無さには思うところはあるが。
「グレイシア姫様に務まるかな…」
「あまり自己主張される方ではないし…」
グレイシアがリュカの質問に答えかねていると、次第に周りの生徒から心配する声が大きくなっていった。グレイシアは咄嗟に口を噤むと再び下を向いてしまう。もしかすると、純粋な心配する声も、彼女にとっては責められているように感じてしまうのかもしれない。私は少し考えてから、再び発言する。
「グレイシア姫様、そこまで気負うことはありませんよ。ここは学び舎ですので、例え上手くいかないことがあったとしても、皆で知恵を出し合い解決していけばよいのです」
もし、引き受けることが嫌であれば、すぐに断っていた筈だ。けれどグレイシアは「自分なんかが…」ともらしてはいても「やりたくない」とは言わなかった。つまり、そういうことだ。
私の言葉にクラスの皆も頷いた。顔を上げたグレイシアとしっかり目が合ったので微笑んでみせた。するとグレイシアは少しだけ感極まったような顔になりながらも、「私でよければ…」と引き受けてくれた。
無事に二人のクラス委員長が決まり安心だ。
朝礼が終わり、次の授業までの空き時間に、私の机の前を右往左往するグレイシアがいたので、私は静かな視線を向けていた。周りの皆も、姫の不思議な行動に注目している。
「………あの、何か御用がおありでしょうか?」
焦ったい気持ちから、思わず声をかけてしまった。
「あっ、あの、私っ…!」
ピタリと足を止めて、潤んだ瞳で私を見るグレイシア。私と、クラスの皆が彼女の言葉に耳を傾ける…。
「……しゅ、シュテルンベルク侯爵令嬢っ…」
いっぱいいっぱいな表情で、頑張って何かを伝えようとする姿が、やはり昔のザカライアの姿と重なって、思わず笑みを浮かべてしまう。そんな私を見たグレイシアは、少し目を開き、そして意を決したような表情で言った。
「貴女とっ、私は親しくなりたいのですっ…!」
それはとても可愛らしい姿で、初めて正面から『親しくなりたい』と言われた嬉しさから、私は声をあげて笑った。
「はい。私のことは是非、親しみをこめて『レイちゃん』とお呼びください」
「……私のことは、ぜひ『シア』と…」
一年一組のクラス一同は、『幻の令嬢』レイラ・シュテルンベルク侯爵令嬢と『妖精姫』グレイシア王女の友情の始まりを、微笑ましい瞳で見守っていた。
私に新しい友人が出来た。
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